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「あんた、そのままじゃ明後日自殺するよ」
「……え?」
商店街。
無料で占いしてもらえるって聞いたから帰りに寄ったら
突然、そんな失礼なことを言われた。
うすい紫色のフェイスベールはなんとも嘘っぽいし、聞き流してよかったのだが
私はそのまま動けなくなった。
なぜならまさに昨日、台所で包丁を手首にあて
数分立ち尽くしてしまったからだ。
明後日
という具体的な感じも気になる
ふつう、こういうのは
今年中には運命ぽい人があらわれるかも
とか、時期も運命もぼやかして言うものだとおもう。
「どうすれば自殺せずにすむんですか?
お金、あまりないんですけど」
「あんた丁度来店100人目だからね
無料っていったろ
……なりたい姿を思い浮かべればいい
あんたは今のまま
じゃ死ぬ、確実にね、回避するためにちゃんと本心のままに願えば幸せになれるよ」
「なりたい姿……?」
「ああ、願いな
私が叶えてあげよう
ただ注意点がある」
「注意点?」
「何になりたいか、選択をミスらないことだ
戻れないからね
たとえば猫みたいに気ままに暮らしたい
て願った客がいたけどね
野良猫は地獄だよー。飯はないし常に体中はかゆいし泥水すすりながら生きて
最終的に
車に轢かれて死ぬからね多くは」
「……猫って大変なんですね」
「時間はやる、一回だけだから
ちゃんと考えな」
不思議な空間だった、なんかお香でもたいてるのか
すんなりと話を聞き入れてしまうくらいには
私……私はきっと
彼の親友になりたいんだとおもう。
◆
私の同棲中の彼氏は、やさしいし
評判もいい
結婚の話もチラチラでていて、それにとくに悪い気はしなかった。
正社員であることをやめ、パートで働き始めた私にも嫌な顔一つせず支えてくれて、彼のおかげで今がある。
そう、感謝しなくてはいけないし
私はいま幸せである。
朝、掃除機をかけて、洗濯物を干す。
食事の準備をし、あとはウェブライターになるための勉強をしたり。
広い家で、念入りにいれた珈琲は
香り高く。
「私って幸せだなあ」
自分自身にそう言い聞かすように私は繰り返し呟いた。
夜8時
彼が帰って来る。
一緒に食べ始めるけれど、終始無言で
食事中テレビをつけるのを嫌がられるので
沈黙がすごく重く感じ
私は口を開く。
「それでね、パートの竹田さんが意地汚くてさ
客に売らなきゃいけない商品
自分が休憩時間に食べたいからって見づらい位置においてて……」
「あーうん……」
携帯を見ながら相槌、でも、話が終わったり詰まったりすると視線はこちらに戻ってくる。
「あ、そうだ、ごめん
今から通話するわ
食器洗うの俺やるから」
「あ、うん、わかった」
ちゃんとはやく彼がかえってきて
大変じゃない家事も手伝ってくれて
一緒にご飯食べてくれて
幸せなんだけど
私が一番もやもやとするのは
彼の親友の存在だった
それも小学校からの親友で、週一で遊びに行ったり、数日おきにゲームや通話をしている。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
なんだか、私が寝るとかでかけるとか
そういう時に彼の声はるんるんになる。
そして私が扉をしめると
どっ、ととても楽しそうな笑い声が聞こえた。
「…………」
私はとくに会話についていけないし
多分通話に混ぜてもらったところで、わからない。
寝返りを何度もうつ
特別うるさいわけじゃないのに、寝れないなあ。
ただ、自分と話したときに心から笑っている彼を
自分は最後にいつみただろうか?とおもう。
「早く寝なきゃ……はやく……また不眠症になる」
自分は症状こそ改善されたが
学生の頃はうつ病で、それをおさえるため
あまり自分を極度のストレス状態にはおかないようにしてる
してるのに
結局、寝れないまま出勤した。
「ごめんレジかわってー」
「はい!」
この日は
激安キャンペーンやったらしくて
勤め先のスーパーは大忙しだった。
慌ただしい中、私は機械的にバーコードをよみとり、値段を読み上げ、袋につめて
……ただ、機械ではないので
どうしてもヒューマンエラーは起きる
寝不足でふらふらとした視界の中で。
「はい、次の人…………」
あれ?クレジットカード挿しっぱなし
前の人現金支払いだったよね?
え?じゃあどのタイミングで来た人のクレジットカード?これ……。
お腹の底がひやっとする感じに
行列をつくり、急いでくれという客の前の
レジ休止中のプレートを置く。
「あのさあ……ポイントカードならまだしも これはやばいって……」
スタッフルームのさらに奥
説教されるときにしか連れてかれないような物置につれてかれ
一時間ネチネチと人格を否定される。
説教されてる間にも客はくるので
私をのぞく残りのメンバーで対応し、レジのミスは連続した
なんだか、そのすべてのミスが
私のせいだと言われているような気がした。
泣きながら帰る、帰り道
ふらっとホームに落ちたくなった。
あの猛烈な音、スピードで
この命を一瞬にして奪い去ってほしいと。
耐えかねて
私は電話をした
『ねぇ、ちょっと話したくて……気落ちがひどくてさ……どうしても……その』
普通に私が悪いのだけど
心配してほしかった
このままではくじけてしまいそうだ。
世間話でいい
欲をいうと好きといってほしい
自分を肯定してほしい
彼の電話に
私はそういう返事を期待する
『ごめん、ちょっと忙しくて
帰ってからでいい?』
『あ、ごめん仕事中……?』
『あー、そういうわけじゃないんだけど』
歯切れが悪そうな返事
なんとか帰ったら、床にはゲーム機が広がっていて
よくわからないコードとかマイクとかあって
パソコンで親友とチャットした履歴があった。
「ごめん、で話って?」
「あ……いや、なんでもない」
結局話を聞こうとしてくれてるんだから
やさしいとおもう
でも、なんか、今じゃない
さっきがよかった
その微妙な感じは、自分の中にとどめるしか、なかった。
たとえば、どこかに旅行にいったとき
親友には高価なお菓子の箱詰めを
私にはそのうちの一つを
たとえば、親友になにかあったとき
電話をし、駆けつけるけど
私になにかあっても
大丈夫?
とそれだけ。
扱いの差
それが、それだけのものがなぜか異様に私を苦しめる。
長電話も爆笑も夜通し遊ぶのも
私とは、しない
親友とはしなくて私とはするのはちょっとエロいことだけだと思う。
友達が多いのはいいこと
友達を大切にできるのはいいこと
けど、私に友達がいないせいで
私は結局、誰からも一番には思われてないんだなあ、と虚しくなってしまう
ああ、そうだ
一番の親友だと思ってた子が他の子に一番の親友
て言ってるのを毎日見ているような
その虚しさは日に日に私を覆っていく。
◆
そして、冒頭に戻る。
私は占い師に祈った
「お願いします……」
「私はーーーになりたいんです」
「ほい、叶えよう」
視界が途絶え、目を開けると
自分は外にいたはずなのに
見知らぬ部屋にいた。彼の親友の姿になれたんだろうか?!
一度写真は見たことある。
前髪が長くて、細マッチョな青白い子だった。
あたりを見回すと
うすいピンク色のカーテン、キャンドル、カレンダー、白い机、椅子
「あれ……女の子っぽい部屋」
てか、この声は私のままじゃないか?
鏡をのぞきこむ
何も変わらない。
「まあ……人がそんな変われるわけないか
てかここどこなんだろう?」
私はあたりを見回す。
状況を確認したくてスマホをみると……
「え?!」
自分と彼のトーク履歴に送った覚えのないやりとりがあった
『別れてください』
『なんでそんなこと急に言うの?話し合おう』
『どっちがわるいっていうんじゃない
ただ終わらせたい
ごめんなさい
もう荷物はもって出ました
引越し先も教えません
さようなら、お幸せに』
それが数ヶ月前
ここは、自分の新しい家?
パソコンをみると、正式にいくつか仕事のメールがきていて、自分が美容系の記事を書いていることがわかった。
ウェブライターになっている……?
どういうことなんだろう?
私はあのとき占い師に彼の親友になりたいと頼んだのではなかったのか
ウェブライターになりたいていったの?じゃなあなんで彼と別れてるの?
目を閉じ、思い出す
「私は……自由になりたいんです」
ああ、そうだ
私は
わかっていた。
べつに彼の親友になって夜通し会話してゲームしたいわけじゃない、遊びたいわけじゃない
酒を飲み明かしたいわけじゃない。
私の本能は
この虚しさからの解放を求めていたんだ。
私は別れ、自由に、一人になり
その結果仕事も取れたということだろうか
え、じゃあ……
「もうなんかもやもやするなとか思わなくていいんだ!いまからお酒のんで好きな時間に寝ていいし出かけたっていいし
仕事の失敗も成功も自分にかえってくるだけなんだ
私……私自由になれたんだ!」
自由……
自由ってなんて素晴らしいんだろう!
解放感がすごすぎて私は
ヒトカラや一人回転寿司など一人じゃ抵抗あるものを試すために家から飛び出した。
明日からしっかり仕事しよう
大丈夫、なんかやってける気がする
彼がいる時の方が寂しかった
人間、相手がいないならいないでこんなにたくましくなれるのか
「幸せ!!」
心からそう叫ぶ私
あの占い師は、いまも、どこかに。
◆◆◆
「彼女に理由もわからず突然ふられて……つらいんです」
「はぁ、たしかにあんたいまのままじゃ
今後彼女できないね
何かなりたい理想像はあるかい?
五千円で叶えてあげよう、ただし注意点はー……」
「もう何もしたくないですよ
木の上にぶら下がるナマケモノのように生きたい
ナマケモノになりたい」
「あーーー注意点を聞かずに
願っちゃぁ叶えるしかないね……
すまないが、大変だよナマケモノは
筋肉がないし食事もそんなできないし
敵から身を隠していつまでも大人しくしてるだけで正直生きててなにが楽しいのかわからない生命体だけどまあ、変えてあげるさ」
end
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