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「皇族? わたしはしない。そんなこと」
ルトは振り返り、わかっておりますともと頷いた。
「だから話したのです。アストナ様はまだお若い。この流れを変えるにはまだまだ力が不足しているでしょう。だがしかし、このまま何もせぬのは加担してると同じ。非道な行いをしている者たちと同等に思われるでしょう」
奥歯を噛み締めたアストナは、険しい顔つきのまま自分にできることを必死に考えてみた。そんな悪人どもと一緒にされるのは屈辱だった。
「わたしに何か出来るだろうか。父に会いたいと言っても会えるのは一ヶ月後になるかもしれない。どうしたらいい?」
父のかわりに采配を振るう長兄マルカに話したところで無視されるのがオチだ。アストナの母は父から寵愛されていたらしく、そんな母から生まれアストナを疎ましく思っているらしいのだ。母譲りの鳶色の髪やスッキリとした顔立ちをしたアストナを、できるだけ皇帝である父から遠ざけておこうと躍起になっているふしがあった。長兄といえども父の機嫌を損ねたら後継者争いから弾かれると考えているのだ。
「山の民に施しをすることはできませんかね。金を用意して貰えるなら食い物はわたしが手配します。街の者より山の民への救済が急務でございますよ。このままでは来年の春には人口が半分ほどになってしまう」
齢十四、欲しいといえばなんでも用意して貰える身分ではあるが財と言えるものは何もなかった。父から授かった宮廷衣装や剣を売るのは問題だ。行事ごとには必ず使うものを売ってしまったなどとは言えないのだ。
「金は……わたしにはどうにもならない」
ルトは言い出しにくそうに口を開く。
「お母様の宝石類はどうでしょう。思い入れはあるでしょうが、それで助かる命があるならば──」
目を瞑ると母の笑顔が浮かぶ。胸元には父から授けられた宝石類。『女神の涙』という大きなエメラルドが嵌められていたネックレスを思い出していた。母亡き後は宝石箱に押し込んでアストナが保管している。
「そうか、あれで助かる命があるのならば母もそれを望むだろう。どうしたらよいだろうか。わたしはあれを売る方法すら見当もつかない。父には出来るだけ内密に行いたい」
父から母に贈られた物を勝手に売ってしまうことに罪悪感を覚えなくもない。ただ、母以外にも父には妻があり、同様に贈り物をしていたことを考えればアストナの気持ちは少しばかり慰められた。
「お任せいただければ宝石を換金し、それでありったけの乾燥芋を買って山の民に届くようにいたします」
信用しているルトに任せるのは問題ない。思いは目先のことではなく、この先の事へと向いていた。
「山の民への施しはそれで構わない。しかし、税を下げるにはどうしたらいいだろう。わたしはどうしたら発言力をつけられるのだろうか。兄に進言したりすることが可能になれば何とか民の負担を軽くできるのに」
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