殺し屋と誕生日

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 爪をなでていると、スマホが音を発した。  スマホの画面を見る。  電話の主はマスコーネ。  犯罪組織のボスで、レギュラーの依頼主の一人だ。  私は電話に出た。 「はーい、なにかしら」 「仕事を頼みたい。いいか?」 「中身によりますけど」 「時間があるんだな。うちに来い、話がある」  電話が切れた。  こうなると、行かざるをえない。  私は席を立った。  数十分後、私は、マスコーネの部屋にいた。  大きな机を前にして座ったマスコーネ、その前に立つ私。  部屋の隅には、銃を持った二人の男が立っている。  私がマスコーネになにかすれば、撃つつもりだろう。  もちろん、そんなことにはならない。  少なくとも今は。 「殺して欲しい男がいる」  マスコーネが言った。 「いつも通りね」 「そうだ」 「相手は?」 「ビート・タレバ。街の西のギャングの元締めだ」 「彼とは上手くやってきたじゃないの」 「ところが、あいつんとこの若いのに跳ねっ返りがいた。俺んとこの若いのと揉めて、バンだ」 「その復讐? ずいぶんとまた短絡的ね」 「俺もそこまでバカじゃない、手打ちはしようと思った。が、ビートの奴、その若いのを逃がしちまった。俺の顔が立たん」 「だから、ビートを殺す?」 「そういうことだ」 「どちらにしろ、くだらないわね」 「組を維持するのは、くだらねえことの積み重ねだ。嫌ならいい」 「いいえ。やりましょう」  くだらない理由と、くだらない面子。  いつもそうだ。  殺しは大体、くだらない。  だからこそ、よほどの時以外は、断りはしない。  結局のところ、殺しを生業にすること自体がくだらないのだ。
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