殺し屋と誕生日

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 マスコーネの家を出た私は、ビート・タレバの家に向かう。  たどり着くと、当然というべきか、入り口はビートのところの若い連中が固めている。  五人ばかり。  殺せないことはないが、無駄だ。  私は家の裏側に回った。  裏側は警戒が薄く、銃を持った男が一人いるだけだ。  私は、コートのポケットに手を突っ込んで、男に近づいた。 「この家には近づくな」  男が言った。  私は、ポケットの中でひっつかんでいたスプレーを取り出し、男の顔に噴射した。 「うっ」  男はうめき声をあげ、倒れた。  私は倒れた男の方は顧みず、家の裏口の扉を開けた。  鍵はかかっていたが、針金を回せば、あっというまに開く。  私は家の中に潜入した。  家の中は、大した警戒がされていなかった。  よくあることだ。  犯罪組織の長であっても、自分の家の中までは、銃装した男に守らせたくはないものらしい。  一階のすべての部屋を見たが、ビートの妻であろう老婆が、台所にいただけだ。  足音を忍ばせて動いたので、老婆には気づかれなかった。  私は二階へと駆け上がった。  二階の東の部屋に、ターゲットがいた。  ターゲット――すなわちビート・タレバは、机に向かって、なにやらいじっている。  私は目を凝らして、なにをいじっているか見た。  それは、鉄道模型だった。  ビートは鉄道模型を、丹念に組み立てている。  これもまた、珍しくもない。  血で血を洗う世界を生きている男が、家では子どもに戻ることは、よくあった。  ビートが作業に一息をついて机に作りかけの模型を置いた瞬間、私は、部屋へと踏み込んだ。  右手に装着した鉄の爪をビートに向けて、言った。 「すいません、あなたを殺しに来ました」
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