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ビートはふっと笑った。
「その鉄の爪で、私を引き裂こうというのかね」
「ええ、まあ」
私は答えた。
「マスコーネは最近、君によく仕事を頼んでいるようだな。この街じゃ、肉を裂かれて死んだ裏社会の者が、ここ三ヶ月に五人いる」
「ええ、あなたは六人目ですね」
「払いはいいのかね、彼は」
「悪ければ雇われない」
「それもそうだ」
「あ、そうだ、交渉するつもりなら、無駄ですわ」
「はは、なるほど、マスコーネより高額を払うから許せと」
「ええ、そうおっしゃる方が多いの」
「バカなことだ、それが通るなら、誰がそんな殺し屋を使うものか」
「あなたはご理解が早くて助かります」
「極端なバカじゃないだけさ、みっともない男だよ、私は」
「抵抗なさいますか?」
私は、ビートに突きつけた鉄の爪を動かした。
ビートがどんな早撃ちでも、この状況から生き延びることはできない。
大声を出して人を呼ぶのも無駄だ。
「抵抗ではないが、期間限定で命乞いをしたい」
「期間限定?」
「この鉄道模型を、作り上げてしまいたいんだがね」
ビートの前には、先ほど作りかけていた鉄道模型が転がっている。
それはもはや完成を目前にしていて、これを作りかけにしたまま逝くのは、たしかに心残りにも思える。
「ふむ。いいですよ」
「君は話の分かる奴だ」
「プロ失格なだけですわ」
ビートがなにか企んでいる可能性を考えるなら、ここで模型を作らせるべきではない。
とはいえ、ここで同情心を一切起こさないのは、私には少し非人間的に思えた。
殺しという非人間的な行為をしているからこそ、こうした時に、多少の人間性を担保したいと思うものかもしれなかった。
ビートはふたたび、机の上の鉄道模型を組み立て始めた。
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