殺し屋と誕生日

6/7
前へ
/7ページ
次へ
 四日後の深夜。  私はふたたび、ビートの家に現れた。  もはや見張りは立っておらず、鍵という鍵は開け放しになっていた。  私はビートの部屋まで、家の中を歩いた。  家の中には、パーティーの残滓があちこちにあり、華やいだ空気すら、まだ残っているように思えた。  私は二階に上がった。  ビートが、この前と同じ机の前に座って待っていた。 「お孫さんは喜んだかしら?」  私が聞くと、 「いつになくね」  と、ビートは微笑んだ。 「奥さんにはお別れは言った?」 「ああ。しばらく泣いたが、今は落ち着いた。自分の部屋にいるよ」  私は、懐から、例の催眠スプレーを取り出した。 「これを使いましょう。これで眠らせてから、殺す」 「そりゃ、いくらなんでも優しすぎるんじゃないかな」 「思ったよりも、あなたを好きになったみたい」 「それは光栄だね」 「ええ。それじゃ」  私はビートの顔に、催眠スプレーを吹きかけた。  そして、その喉元に、鉄の爪を突き立てる。 「うっ」  といううめき声のあと、ビートは、だらりと手を下げた。  眠っているようにも見える、静かな死に様だった。  私は、ビートの机の上にあるニッパーをポケットに入れて、家を立ち去った。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加