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占う前に…
私は天通 紀沙。高校三年生。毎日がブラックで何にも感じなくなってきた今日この頃。人並みの生活は送れていて、バイトだってしてる。最近配膳ロボットのせいでクビになったけど。でも、スーパーのレジ打ちがあるのでなんとかなっている。作り笑いに疲れてきたこの日々があと一年で終わることが吉と出るか凶と出るか。
四月の暖かいはずの季節がやけに寒く感じた。小学生が消えた公園の中、ブランコにたたずまっていると、天使が来た。
「アンタ誰?」
「僕はミルフィ。占う天使です。」
「占う天使、ね。じゃあ、占ってよ。」
気軽に聞いてみた。なんで天使が現れたのに、こんなテンションかって?それは、この世界はいつからか天界とつながっている。そして『カミサマ』と呼ばれる存在が天使を通じて人に幸せをくれるらしい。その確率は宝くじよりも低いとかなんとか。でも、まあ私のことを幸せにするには無理だと思う。
「わかりました。少し待っててください。」
どこから取り出したかわからない魔導書のようなものがそのミルフィとかいう天使の手元に出てきた。ピカッと光った。目がチカチカする。光が消えたと思って前を向くとミルフィが口を開いた。
「占い結果。天通紀沙さん。あなたは今日運命的な出会いをするでしょう。」
「バカなこと言わないでよ。私に話しかけてくれる人なんて…。」
ハッと思った。コイツは人と限定したか?いやしていない。つまり、私が出会ったのは…。
「自分で自分のこと言うなんて自意識過剰?」
「ぼっ僕なわけないですよー!運命的なんてそんな…。」
ポッと頬を赤く染める。あのー、これアンタが主役じゃないんだけど。
「私みたいな人間によく話しかけたね」
「僕の仕事はそういう人を幸せにすることなので」
テヘッと笑うその顔がパッと花が開いたようでかわいかった。
「で、その運命的な出会いをした私はどうなるの?」
「知りたいですか?」
「うん。気になる。」
今まで無くしてきた好奇心が襲ってくる。知りたい。この後、どうなるのか。私は知りたい。だって、久しぶりに面白いって感じたもの。
「対価を払ってください」
「対価、ねぇ」
今、手元に持ち合わせている金額は三百四十円。未来を知りたいとなると一万円以上になるのでは?世知辛いな。
「お金じゃなくても大丈夫ですよ〜」
「例えば?」
「自分の寿命とか、感情の一つとか、夢とか、身体の一部でも可能ですよ〜」
「アンタ、見た目の割に残酷だね」
「それが仕事なので」
俯きがちにつぶやく。金髪にエメラルドグリーンの瞳が輝いて見えた。それが綺麗で眩しくて羨ましくて。まるで希望の光みたいで憎たらしい。
「じゃあ、私の時間をあげる。一緒に過ごしてさ、喋ったりして、私の大切な時間奪ってよ。それでいい?」
ニコッと微笑むとソイツは顔を真っ赤にした。
「じゃあ、対価はこれから払うから教えてよ。私の未来。」
「そっ、そうですね!」
また、あの魔導書みたいなものが開かれる。今回はすぐに終わった。
「占い結果。天通紀沙さん。あなたは明日、そのものとお出かけするでしょう。」
「へぇー。なるほど。」
私は立ち上がって、ミルフィの前に来る。
「早速対価を支払おうじゃない。明日、またここで集合ね。」
「えっ、あっ、えーっと…」
「私の対価は『私の時間をあげる』こと。だから、明日の時間を一緒に過ごさないかってことだよ。わかる?」
「そういうことですね!わかりました!」
そう言ってミルフィはあの本を閉じた。
「それにしても、お友達やご両親などと用事はないんですか?」
「私、高三だから。そんな暇ないでしょ。」
「でも…、僕なんかでいいんですか?」
「いいんだよ。私、久しぶりなの。気軽に話せる相手ができたの。」
そういえばそうだ。見知らぬ相手になぜ気軽に話しているのだろう。私、どうしちゃったんだろう。ただ、この好奇心の答えを教えてほしい。だから、
「友達になろうよ。私とミルフィ。今日から友達に。」
なぜだか、微笑むことができる。表情筋が勝手に動いた。ああ、そういえばどうやって自然に笑えるのかもう覚えていなかった。ずっと営業スマイルしかわからなくなっていた。こう、久しぶりに笑うのって…。
「大丈夫ですか⁉︎」
いつのまにか私の涙腺は脆くなったらしい。
「うん。大丈夫。で、いい?」
「いいですよ!僕と紀沙さんは今から友達です!」
オー!と手をいっぱいに振り上げるミルフィがやけに落ち着いて、すごく久しぶりに安心できた。
「じゃあ、紀沙さんの誕生日パーティーしましょう!」
「なんで知ってんの?」
「それは…」
沈黙が広がる。まあ、いいか。
「じゃあ、待ってるから」
手を振る。振り返してくれた。私は明日が誕生日でよかったなんて久しぶりに思えた。
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