枯れた花と傲慢な薔薇

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枯れた花と傲慢な薔薇

憂鬱だ。今日も気持ち悪い空気を吸わなきゃいけないのか。こんな真っ黒の心を待つ人たちの巣窟へ。 「今日もいらしたの。親殺しの天通紀沙さん。」 不敵に微笑むドリルツインの少女。お嬢様のキャラでよく二年間通せたなとは思っている。 「あー、教室にいらっしゃると私の綺麗な顔が歪んでしまいますわ。なんということ。クラスの花である私が笑顔でないとはどうしましょう。槍でも降るのでしょうか。」 演技力なさすぎでは?と思いながら自分の机に着く。いつも通り罵倒が書かれたままだが、教師も気にしてないので綺麗にする気も無くなった。私は彼女のことをこう呼ぶ。傲慢な薔薇と。綺麗な薔薇にはトゲがある。彼女もそう。彼女の場合、それは傲慢な態度。ちなみに私は枯れた花だかなんだか言われている。気にしてないけど。 「枯花(かればな)さん。大丈夫かな?」 「でも、怖いよね。だって、小さい頃に両親とお姉さん殺しちゃったんでしょ?」 「そうだよね。だから、なんていうか怖いんだよね。」 私の名前は天通紀沙だし、枯花さんって誰が呼び始めたんだろう。ソイツに会ってみたいわ。 「あら、今日もスリッパですわね。ご自分の上靴はどこに行ったのかしら?」 そこの薔薇は黙って午後ティーでも飲んでろ。 「先生方にご迷惑おかけして、そのお顔は何という態度。クラスが汚れてしまいますわ。ああ、汚らしい。近寄らないでくださいます?」 自前のセンスをパタパタする。そんなにモフモフなのどこに売ってるか知らないけど、校則に引っかからないんだね。それ。それと、私は一回もアンタに近づいたことないよ。自意識過剰の被害妄想やめてくんないかな。 「おーい!紀沙〜!」 いつのまにか呼び捨てになったミルフィ。もう、羽もしまい忘れてる。ってか なんで私の学校知ってんの? 「だっ、誰ですの⁉︎」 「僕ですか?占う天使のミルフィです。」 私が教えた決めポーズを忠実に守ってくれてる。その調子だ。ミルフィ。このうるさい薔薇を黙らせろ! 「てっ、天使⁉︎」 クラス内があたふたしている。「俺⁉︎」「私⁉︎」とか期待に満ちたのいりませーん。ミルフィは私の友達でーす。 「ミルフィ、どうしたの?」 「紀沙!」 抱きついてくるミルフィが愛おしくてたまんなくなり、頭を撫でる。 「紀沙、もういいですよ」 「ミルフィ、なんで来てくれたの?」 「紀沙が前、学校嫌いだって言ってたから…」 かわいいなぁ。本当に。私は「大丈夫だよ」と言って、もう一度頭を撫でる。 「なっ、何をしていらっしゃるの?天通紀沙さん。」 「私の友達と戯れあってるだけだけど?」 「そこの天使は私に幸せを運んでくださるのでしょう?」 あー、コイツ本当に自意識過剰なんだよ。 「アンタ、ミルフィを幸せを運んでくれる奴隷だとでも言ってんの?ふざけんな!ミルフィはアンタみたいな傲慢で顔だけの人間に幸せを運ぶ天使なんかじゃない。私は見てきたの。だから、その面やめなよ。せっかくのお顔が台無しだよ。」 「天通…、紀沙…!」 あーらら。綺麗なお顔が歪んでますよー。睨む顔は美女に見えず、野獣に見えた。 私は知ってる。天使の幸せがとても大成功するだけではないこと。ちょっとしたラッキーってことも天使のしわざだったりする。例えば、じゃんけんで何連勝したりとか、アイスで当たりが出たりだとか。天使はいるだけで周りを幸せに導いてしまうらしい。そして、人々はそれに気づかず、天使直々に手が降った幸せを “天使の幸せ” 考えてしまうのだとわかった。 さらに、天使は個々で近づく人間が違う。ミルフィが紹介してくれた天使たちの特性を見ているとわかる。ミルフィは困っている人に近づいている。だから、このドリルツインには近づかない。コイツはどちらかというと人を困らせに行くタイプだからだ。 「ミルフィありがとう。でもね、私一人で大丈夫だよ。ミルフィは他の人のところに行きな。私は大丈夫だから。」 「紀沙…」 「また公園で待ってるから」 「うん!じゃあね!」 大きく手を振ってあげる。空を飛んでる君が見失わないように。 「天通紀沙さん。これはどういうことでございますの?説明よろしくて?」 まずはこの薔薇に除草剤でもかけてやりますか。
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