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一人じゃない
「紀沙!」
「ミルフィ…?」
図書室には私一人しかいなくて、時計を見るともう二限目が始まっている。やらかしたな。
「紀沙!大丈夫?」
ここまで来るのに急いだようで汗をかいている。私はハンカチを出して頬についている汗を拭ってあげた。
「ミルフィこそ大丈夫?」
「僕は大丈夫だよ。紀沙は?」
「私も大丈夫。ちょっと日当たりが良くて眠っちゃっだけ。」
「その目は?」
「えっ、なんでもないよ。心配しなくて大丈夫。」
平気そうに見せると「そっか…」と言って私の隣の席に座った。
「紀沙は授業大丈夫?」
「三限目から出るよ。それまでお話ししよう。ミルフィ。」
「うん!」
明るい笑顔。私も昔はこんな感じだったよな。
「紀沙?」
「あっ、大丈夫だから。心配しなくていいよ。」
また愛想笑い。癖になってるからかな。表情が崩れない。
「紀沙はもっと僕を頼ってよ」
キョトンとしてしまう。ミルフィを頼る?
「僕、紀沙に頼りっぱなしで、何にもお返しできてない。僕はね。紀沙にお返しがしたいの。僕みたいな落ちこぼれを救ってくれた紀沙に。」
「ミルフィが落ちこぼれって」
「僕、天界ではそうなんだよ!みんなよりもできが悪くて、バカにされて、一人前にもなれない役立たずだから、笑われて、嫌われて、僕っ!」
感極まったように言うミルフィを見ていられなくなった。
「ミルフィは自分で思ってるよりできる子だよ。できが悪いなんて私は思ってないし、一人前じゃなくても私を助けてくれたじゃん。それに、役立たずなんかでも、笑われていいわけでもない。だってミルフィはいつだって努力してきた。占う天使のミルフィは私にとっては大切な友達で、大好きな天使だよ。」
「大好き?」
「ミルフィのことが大好きってことだけど?」
「それってどういう好き?」
「憧れで、大切で、失いたくなくて、ずっとそばにいてほしい友達」
最後の友達のところでミルフィはガクッと項垂れてしまった。えっ。そんなにショックだった?
「紀沙は自分が知らないだけでとっても綺麗でとってもかわいいからね!」
「急にどうしたの?」
「紀沙に自覚を持ってもらおうと思って」
「私はダメな子だし、そんなにかわいくもきれいでもないよ」
「もう!無自覚!」
なんだかミルフィがプンスコしているのがかわいくて笑ってしまった。
「そういうとこ誰にも見せちゃダメ!」
「えっ?」
「だから!そういうとこ!」
「わかんないよ〜。もう少し具体的に…。」
その瞬間チャイムが鳴った。ミルフィとバイバイして私は教室に戻る。大丈夫。私は一人じゃないから。
「あら、いらしたの」
敵意剥き出しの黒瀬がいた。ドリルツインの黒髪をなびかせてドヤ顔をしている。なんかあった?
「私から逃げるとは怖気付いたのかしら。ねぇ、皆さん。」
取り巻きたちがうなずく。イライラしてきた。
「今なら私の靴磨き係にでも任命さしてあげてもよろしいですわ」
「ああ、なんて寛大な方なの(棒)」
「素晴らしいお方ですわ(棒)」
「そこの小娘に慈悲を与えるとはやはり黒瀬様に敵うものはいませんわ(棒)」
あのー、この悪役令嬢ごっこいつ終わる?
私がしかめ面をすると黒瀬は「なんて汚らしい」と吐き捨てた。
「私の前でそのようなお顔はやめてくださります?汚れますわ。」
私はもうめんどくさくなったので、自分の席についた。そして、黒瀬に言った。
「黒瀬、お前の言い分はわかったから、私よりもそこの金髪美少女に喧嘩売ったら?」
私はドア付近で友達と話している金髪美少女(自称帰国子女)を指差す。
「あら、どうしたんですか。天通さん。」
何事もなかったようにクラスメイトのふりをする。ソイツ。ムカつくわ。
「これ、全部やったのアンタとキミらだよね?」
机の罵倒に椅子の上のハチミツ。危うく引っかかるところだった。
「なんのことかしら?」
「しらばっくれないでくれる?」
「やってないことだもの。心当たりなんてあるわけがないわ。」
「ああ、そう。じゃあ、私が証拠出してあげるよ。」
「証拠ってなんのことかしら?やっていないから、あるわけないじゃないですか。」
「それはどうかな」
私は一枚の写真を出す。そこの金髪美少女と友達が明らかに自分のでもない下駄箱を漁っているところだ。
「それがなんです?」
「これ、私の下駄箱」
「それがどうしたのかしら?」
聖母のような笑みの中に黒い闇が隠れている。イラついてやがるな。
「なんで、私の下駄箱開ける必要があったの?」
「間違えてしまうこともあるでしょう」
「じゃあ、これは?」
私の上靴をトイレにあるようなトングで持って笑いながらどこかへ持っていっているシーンだ。
「なんで、笑いながら他人の上靴を持ってんの?しかも、トングで持つ必要性ある?おかしいよね?なんで?」
「そんなの、合成でもしたらいくらでもできるじゃない」
「証言が必要かな」
そして、私はこの写真をもらったクラスの優しい子を呼んだ。
「こっ、こんにちは」
黒瀬と金髪美少女と私に囲まれたド修羅場に連れ込まれたのだ。
「田中さん。あなたはどこでこれを撮ったの?」
「下駄箱で人がいないグラウンドを撮ろうと…」
「そうなんだ。分かったよ。この写真はいつ撮ったの?」
「朝に…」
「ありがとう。もう、いいよ。」
ニコッと微笑むと田中さんは顔が赤くなり口をパクパクさせながら逃げていった。私、なんかした?
「で、これはどう説明するの?」
「…」
「なんで黙っちゃうの?」
「あなた方、私を置きざりにするとはいい度胸ですわね」
ヤッベ。黒瀬乱入してきちゃった。
「そろそろ授業が始まりますわ。金城さんの件については私から先生に報告しておきます。これでいいでしょう。天通さん。」
「黒瀬…」
「私だってこのクラスのクラス委員長ですわ。これぐらいできますもの。」
「ありがとう」
初めて、このクラスになってよかったって思えた。優しく微笑むとクラス中があたふたし始める。えっ?どうかした?
「あっ、あなた!急にそういう顔は驚きますわよ‼︎」
「えっ?」
「まっ、まあ、私の方が何百倍とかわいいので許しますが、気をつけなさいね!」
「えっ、あっ、うん」
いや、だからどういうこと?私は首を傾げた。
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