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エピローグ
「ねえ、今更だけどさ」
「うん何?」
「なんで涼真って人と別れる時また明日って何がなんでも言うの」
「えっ、そんな意識してないけど」
「いやいつもまた明日とか、また今度って言ってる」
「あー、言ってるかも」
「高校ん時も、また明日だった」
「あー、今なら分かるかも」
「何何」
「じゃあねって、永遠の別れな感じしない?」
「えー、しない」
「しないかー」
「あ、だから『また』ってつけてたの?」
「多分ね」
「そんな気にしなくても学校で会えてたのに」
「まあね、今もこうして会えてるくらいだしね」
「確かに」
「でも、高校生って何でも理由いらないじゃん」
「そんなもんかもな、あん時はみんな」
「そうだよ」
「てかさ、もう完全に終電逃してるわ」
「うわ、がちか」
「でも今日楽しかったし、別にもういいや」
「……そだね」
「結構東京住んでる奴ら多いし、俺らだって」
「うん、やろうと思えばいつでも」
「じゃあまた遊ぼ」
「いいの、彼女さん、奥さんに悪くない?」
「奥さんってなんかあれだな、年取ってる感じ」
「まあまあ、でもその指輪が証拠じゃん」
「ふふふいいだろ」
「別に羨ましくなんかあ」
「ははは、やっぱ涼真といると落ち着くわ」
「……奥さんに言ってあげなよ、そういうの」
「だから奥さんって」
「ごめんって、わざとわざと」
「お、タクシー来た」
「じゃあ、また」
「おう、連絡取り合お、また遊ぼ」
「うん、そうしよ」
「バイバーイ」
タクシーがどんどん小さくなっていった。
大きく振っていた手は空中に置き去りにされる。
肩の力を抜くと同時に、ため息をもらす。
きらびやかな街に取り残されたような気分は、どこから出てきたのだろうか。いいや、分かってる。
まだ、帰らなくていいかな。どうせ一人暮らしだし。
そんなことを思いつつ街灯の光に導かれるように歩く。
白い息がでた。十二月の関東は、もう冬が引っ越し終えている。
白い息にのせて、タクシーの去った方向に一言だけ吐き出してみる。
幼馴染は、やっぱりいつまでも幼馴染でしかなかった。冷たい空気が肌を刺激する。
「……大智」
都会の明かりにかき消された星の光は僕に届かず、騒がしい車の音や、誰かの笑い声が聞こえてきた。
今見えている冬の空は真っ暗だと思っていたけれども、よく見ると、紺色だった。
ビルの上を眺めていると一つだけ、星を見つけた気がしたが、すぐに飛行機の明かりだと気がついた。
「ははっ……」
意味もなく笑いがこぼれた。下を向いた僕の頬が、濡れ始めた。
現実は、誰よりも、残酷だと思った。
なんで泣いているんだろう。あいつが幸せならいいじゃん。それが本当の愛情じゃないの、そうだよね?
大智、笑ってた。大人になって、子どもっぽい笑顔が見れたよ。僕が近くにいた時は、見れなかったのに。
だからさ、彼は幸せなんだよ。そんなことわかってたし。
明日が土曜日でよかった。会社に行く気しないし。
翼と文也誘って飲みに行こうかな。あいつらクリスマス暇かな。
誰か、そばにいて。それだけでいい今は。それしか考えられない。
何でまた遊ぼうとか言っちゃったんだろう。もう会える気がしないのに。
あーあ。
気がつくと、振り返って呟いていた。
「……じゃあね、大智」
その声は、虚しくも都会の喧騒に吸い込まれていった。
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