十一、二〇一八年十二月二十四日

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十一、二〇一八年十二月二十四日

「クリスマスイブなのに講義に出てるってことは、二人ともそういう事だよねえ?」 「うるせ、お前もやろが」 「別に彼女作る気ねえし」 大学で知り合った二人の友達と学食で十代らしい会話をしていた。うどんを食べながらいじってくる翼。 「気づいたら十二月だもんなあ、もう辛すぎ」 しみじみと言う文也。 「そんな気にする?」 「気にする!!」 二人が声を揃えて言うのでツボに入ってしまった。 「何笑ってんだあ、涼真も同じだろ」 「いやだから彼女作る気ないって」 「涼真さ、大学なんて青春するために入ってるんだかんな」 「それは学費なめんな」 「まあ、でも半分ほんと」 くだらない会話がぽんぽんと進む。 「いやー、でも雪くらい降ってムード作れよなあ、まさかの快晴」 「そだねー」 「そだねーは札幌だと使わないからね?」 「北海道から来た奴は雪見飽きてんだろ」 「まあね、でも軽くは降って欲しいよ?」 「いやムード作られたら余計悲しいから」 「確かに」 今度は僕と翼が声を揃えた。二人で顔を見合わせてにやける。気がつくと皿は全員空になっていた。 「はー、この後も講義あるとかもう帰りてえ」 「なんか教授もレポート出せって言うしさあ」 「あの教授も独身だろ」 「いやそれな」 暖房の効いた学食は、いつもより学生が少なかった。これもクリスマスの効果なんだろうか。 「てことはさ二人とも明日暇?」 文也が言ってくる。 「そうですけど?」 翼が悲しいを表現した顔で返事する。 「じゃあ俺らでもうパーティー開こう」 「男三人って悲しいものがない?」 「だって呼べる彼女いるか?」 「……パーティーだあ!」 本当に愉快な友達だと思う。 「どこでやる?誰かん家?」 「俺実家だからむずい」 「涼真は?」 「え全然いーよ」 「よし涼真ん家でクリぼっち回避だ」 「あんまり言うと悲しいよ?」 翼は顔をころころと変化させる。普通に面白い。 「高校の友達がさどんどん付き合い始めてさー」 「あーなんか先越された感ねわかるわかる」 二人の会話を聞いて僕の幼馴染は彼女とか出来たんだろうかと一瞬不安になる。彼かっこいいし。 「涼真はさあ、いつでも彼女出来そうじゃん」 「へ?」 「いいよな、イケメンはー」 「いやいや」 「てか俺は?」 「お前はイケメンとは俺は認めない」 「なんで」 僕は顔がいい判定なのか。ちょっと嬉しい。 「講義の後空いてる?もうどっか行こうよ」 「ごめん僕バイト」 「あー、スタバ?」 「うん」 「今日はカップルだらけだろ」 そう話していると、僕のスマホがピロンと鳴った。誰からの連絡かと見た後、胸が少し躍った。 「ねえさ」 「ん?」 「東京をあんま知らない友達を案内するならどこがいいと思う?」 「えー、どこだろう」 「相手によるよ、その反応は……好きな奴?」 少し返答に困ったけど、僕はそのまま答えてみることにした。 「まーね」 「うわ、涼真やめてよ?三人共同体だかんな」 「いやまあ、……可能性低いし」 「えーじゃあどこだ」 「彼女いない奴らに聞いてもねえ」 文也が苦々しく笑う。でも彼らは良い奴らだった。 いろいろな洒落た店や場所を教えてくれて、お礼に今度何か奢ることになった。まあ、いいか。 「でさ、どんな子なの、高校の子?」 「そう」 「顔は?かわいい?」 「お前面食いかよ」 「人類ってそんなもんだし」 「顔は、死ぬほどいい」 彼らは一瞬、黙った。僕は初めて人間の真顔を見た気がする。 すると二人してはーっとため息をついた。 「いーな、純粋にいーないーな」 「翼、語彙力」 「これでも文学部ですけど?」 三人で笑顔で会話する。適当な会話は、僕らを暖めてくれた気がした。 スマホで連絡を返すことにする。 『遊ぼ、いろいろ調べ尽くしておく』 スマホ横のボタンを押すと、画面が真っ暗になる。すぐに自分の顔が映っているのに気がつく。どうしよう。ニヤけが止まらない。自分の顔が気持ち悪く見えた。 「涼真あ、いいなあ」 「俺らそういう子もいないしなあ」 友達二人は優しい目でこちらを見てきた。 「てか講義もうすぐじゃん」 「え、嘘」 最後には慌てて食器などを片して、急いで荷物を持って走った。やっと大学生になった気分がした。 冬の陽射しは低く、僕らは柔らかいオレンジ色に照らされた。
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