十二、二〇二二年十二月二十三日

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十二、二〇二二年十二月二十三日

人生で二十四回目の冬が来た。 仕事を定時であがり、家に戻ってから新しい服に着替えた。そしてシャワーに入り、髪を整えていい匂いのヘアオイルなんてつける。 鏡を見てちょっとナルシストになってから、時計を見る。よし。いい感じの時間。 白い百均のマスクをつけて「行ってきます」と独り言を部屋に送る。大きな音を立てて扉が閉まる。 外は、もう冬だった。東京の汚いと言われる空気にも、もう慣れた。 枯れた街路樹は、枝を空に向かってそれぞれが伸ばしていて、一種の芸術に見える。枯葉が足元をかさかさという音と共に通り過ぎた。 今日は、高校の同窓会が開かれる日だ。 *** 指定された居酒屋には、ちょっと早めに着いたつもりだったが、元クラスメイトの半分くらいがもう集まっていた。すぐに誰だか分かる奴もいれば、大人っぽくなってる奴も多くいた。 カランカランと鈴の音と共に中に入ると、何人が明るく「瀬戸君!」と声をかけてくれた。 「久しぶり」 「また垢抜けてー」 晴山さんがおばさんみたいな言い方をする。社会人一年目の若さの女の人におばさんなんて失礼な表現かもしれないけど。 「みんな大人っぽくなっててびっくりした」 「ねー!いや怖いよ、もう卒業から五年近いんだもん」 わいわいと久しぶりの顔と話す。 彼は、まだ来ていなかった。 「みんな今何してんのー?」 その話題は多様な答えを見せた。 会社員もいれば、教師もいたし、起業してるやつもいた。晴山さんは銀行員、八代さんは何と作家になったそうだ。 「瀬戸君は?」 「あー、えーと、僕は出版社に就職して……」 すると鈴の音がした。振り返ると、そこに居たのは――彼だった。信じられないほど美しくなっていた。 「あー!南野君!」 「お前どこまで進化すんの」 なんてクラスメイト一同盛り上がる。 そのうち目が合った僕と彼は、軽く手を振り合う。その時僕は気づいてしまった。彼の指に輝く光があったことに。 何年も前の七夕の願いは、叶ったのかもう使えないのかよく分からない。僕にとっては嫌なことでもあり幸せでもある事実に、僕の脳はバグを起こす。 彼は僕の隣に座った。顔を見合わせると、僕は心臓がおかしくなりそうになった。落ち着けない。悲しさと安堵とが入り交じった不思議な感覚に包まれる。 僕は無理やり声を発した。 「あ、えと久しぶり」
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