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「秋田さん本人に聞くのが一番確実じゃないですか」
少なからず動揺しながらも何とかは言葉を返す。
対して滝田刑事はいつのまにやら取り出したのか机の上に小さなノートパソコンを広げていた。キーボードを叩き、画面と私を交互に観る形で彼女は言葉をつづける。
「そうしたいのはやまやまなんだけど、今、この時点では生憎連絡がとれないみたいなのよね。連絡が付かなければ明日にでも直接お家に尋ねることになりそうだわ。まあ、それに本人から話が聞けても本当の事をいうとも限らないじゃない」
つまり、ひなと話す前に事前情報が欲しいということだろう。しかもただのお喋りをするんじゃない。警察の捜査なのだ。彼女にしてみればえりなとトラブったなんて話は進んでしたい話題ではない。
「でも、私も詳しくは知らないですよ。彼女とえりなが気まずい仲だっていうことは知ってますけど、そんなのクラス中が気づいてる事ですから」
彼女らの関係性が変わったのは夏休み前くらいだっただろうか。朝、登校したら必ずえりなの席に群がってたのにそれが無くなったのだから、他の生徒達にも何かあったのかくらい気づく。
「じゃあ、その気まずくなった理由は知ってたりする?」
「いえ詳しくは知りません」
ごまかしてるわけではない。本当にしらないのだ。
「本当に? 例えば男女関係でのトラブルがあったっていう話とか……」
「そういう噂があるらしいっていうくらいの情報しか知りません。本当に知らないんです」
尚も滝田さんは詰めてきたが、こちらとしてはその様に答える以外にない。正直な所を言えば、私はクラスメイトとして付き合うならえりなの方がずっと好きだったし仲も良かった方だと思う。が、委員長という立場上、秋田ひなとも関係を全く関係を断つ訳にはいかない。だから彼女らがクラスの中で浮いて以降、一番接触が多かったのは私なのだ。片方ではえりなと仲良くやりつつ、秋田ひなともそれなりの関係構築を求めらえた。だからこそひなとも必要以上に揉め事を作りたくなかったというのもある。そんな私に滝田さんは更なる言葉を続けた。
「真田元気君と宮前まいさんって生徒は同じクラスよね」
真田君というのは水泳部の男子で、ガッチリとしたスポーツマン。優斗君とも仲が良く教室移動や休み時間などいつも一緒に行動している。宮前まいさんはひなグループの一人。一見、ポヤーンとしているように見える女の子だった。
「はい、そうです」
「あのね宮前まいさんが真田君のことをね、好きになっちゃったらしいのよー。で、告白したんだって。でも、真田君は二見さんの事が気になっているっていうお返事だったんですって。青春よね」
滝田刑事は椅子に身体をもたれながら、『女子高生と恋バナか~。私も何だか学生時代に戻ったような気持がするな~』などと能天気な声を上げているが、私は内心びっくりだった。
警察がここに来てほんのわずかの時間だ。にも関わらず既によくここまで調べ上げたものだと感心したのが一つ。そして、揉め事の当事者の名前が特定されたことにもだ。
私はクラス内での二人の様子を想い浮かべたが彼等彼女らの間が表面上、そこまでこじれているように見えなかったが。
「じゃあその真田君と二見さんはお付き合いしてたのかな。知ってる?」
「いえ、聞いたわけじゃないですけど、多分違うんじゃないかと思います」
少なくとも二人共学校でそのような振る舞いをしているところは見受けられなかった。
「じゃあ、彼女が他にお付き合いしている男の子とかは聞いたことない?」
「いえ。今日、彼女と最後にお喋りしたときに『好きな人がいる』って言われたのは覚えてます。でも、誰の事かは聞けませんでした」
「そっか。実はね、彼女のスマホなんかをざっと見たんだけど、それらしい内容は見つからなかったのよね。今時の子ならメールやらメッセージアプリやらを使うでしょ。最後のメッセージもあんな風に送ってる訳だし」
「最後のメッセージ?」
突然現れた言葉には思い当たらず私は困惑する。
「あら、あなた知らなかったの?」
「な、何の話ですか」
別に咎められているという風ではなかった。が、彼女の表情から少し意外だという意味合いが込められている事様に感じ取れた。
「あなたのクラス、メッセージアプリのグループを組んでるのよね」
「えっと、連絡掲示板変わりにつかってるやつの事ですかね」
「多分、それのこと。そこに二見さんがね、亡くなる前にメッセージを残してたの」
「え!」
私は驚いたと同時に制服の内ポケットにしまってあるスマートフォンを取り出すとアプリを立ち上げた。メッセージアプリの通知が画面に浮かび上がっている事にその時点で漸く気づいた。
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