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「気づかなかったのね?」  私は滝田さんの言葉に返事もせず、スマホの画面をタップする。鮮やかな緑色に白地の文字が映し出されたあと、アプリが起動し個別の相手先が表示された。その中の月ヶ瀬1年A組グループという欄を選ぶ。  このグループは教師も含めた連絡掲示板を兼ねたもので、それほど普段活発に使われるものではない。にも関わらず今日に限ってはこんな言葉を使っていい物か分からないが賑やかだった。 【ま、マジかこれ】 【そ、そんな。どうして? 嘘だよ】 【ええええええええええええええええ】 【二見えりなさんが事故でお亡くなりになりました。詳しい事は後ほど連絡いたします。とりあえず落ち着くように】 【な、なにこれ? どういう冗談?】 【ちょっと、えりな。笑えないよ】  彼女が亡くなったというメッセージは担任のフル先の物。だが、その前後にも複数のメッセージが書き込まれている。 そんなクラスメイト達の言葉の波を私はスワイプして送っていった。そしていくつかの絵文字やスタンプなどを越えつつ、ついにそこへたどり着いた。 【私、二見えりなは死を決意しました。理由は誰のせいでもありません。ただ、生きている事に意味を見出せなくなったからです。みんな、今までありがとう。これから遠くへ旅発つけれど私の事忘れないでくれたら嬉しいな。じゃあね】 「こ、これ?」  またまた声を上げてしまう。遺書という奴なのだろうか、なんだか随分漠然とした内容だ。 「今、初めて目にしたみたいね」 「はい。気づきませんでした」  当然だ。教室で気を失ってしまい、意識を取り戻して以降もスマホを見る余裕などなかったのだ。 「私も目は通したんだけど、ぶっちゃけ貴方はこれを読んでどう思うかな?彼女が打ち込んだものだとして違和感はない?」 「どうって……」 言われて今一度目をやる。違和感はバリバリにあった。 「文体とかに不自然な部分は感じない?」 「それは感じます。普段の彼女はこんな書き方したりしないと思います」  生前の彼女の発していた言葉、文章。メッセージ等と比較しても不自然この上ない。 「まあ、死の直前に書いているという事を考えると心落ち着いて書けるものではないでしょうからね。不自然で当たり前かもしれないんだけど、それを踏まえてでもどうかな?」 「ちょっと、判断が付かないですね。でも、こういう言い方をして良いか分からないですけど、随分フワッとしてるなとは思います」 「そうなんだよね。『理由は誰のせいでもありません』って書いてるでしょ。でも、本当にそうならわざわざそんな事書かないんじゃないかな」 「はあ……。っていうとどうなるんでしょう」 「つまりこれが自殺だとすると彼女は死に追い込まれる何らかの理由があった。しかも、学校の屋上をわざわざ選んで飛び降りたのよね。ならば理由は学校に絡むものじゃないかしら。でも、その内容は公にできないようなものだった。だから、敢えて学校のクラスみんなの目に触れる場所にああいう風に書き込んだ。それを他の人が呼んでも気づかない。でも、思い当たる人物にだけは届くメッセージ」  それはつまり見る者が見れば『貴方のせいで私は死にます』の意味で届くという事様な意味か。 「それこそ彼女のイメージとは違う様な気もしますけど。それってその相手を責めたり咎めたりする目的ってことですよね」  人が死ぬ直前にどのような思考に至るのか分からない。そもそも、彼女の事をどれだけ分かっていたかも自信はない。でも、少なくとも私が記憶している彼女はそんな事をするタイプとは思えなかった。 「そうとも限らないよ。遺書というのは想いを残すという事が目的だと思うの。死ぬことによって自分が生きていた事、存在を記憶に残して欲しいという想いをぶつける為の物。そういう解釈をしたら見えてくるものがないかしら」 「そういうものですかね」  何だかわかったような分からない様な言葉だった。 「まあ、私も言ってて完全に納得できるものじゃないことは分かるってわよ。亡くなっている人の気持ちなんて生きている者にわかりようがないからね。でもそれはメッセージを打ったのが彼女だという前提の話」  言って、彼女は意味深に言葉を止める。 「それってどういう意味でしょう」 「そのままの意味よ。あの内容を書いたのは彼女ではなかった可能性もあるんじゃないかなって思ったり思わなかったり」
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