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「じゃあ、まず基本的な所から聞きたいんですけど。先ほど滝田さんは『屋上を選んで飛び降りた』と言ってましたよね。彼女が落ちたのはそこで間違いないんでしょうか」  この高校は下の階から一階が三年生の教室に保健室や職員室に会議室と印刷室。二階が二年生の各教室に学食、購買。三階が私達一年生の各教室と図書室に進路相談室に校長室。四階が音楽室や家政科室、コンピューターなどを学ぶコンピューター、マルチメディアルーム。視聴覚室。理科室。美術室などと割り振られている。屋上は更にその上だ。  あら、ちゃんと話を聞いてくれていたのねと言った後彼女はこう続けた。 「恐らく、ね。まだ調べている最中だから確実な事は言えないけど。屋上の入り口に靴が置いてあってね、それとは別に転落したと思われる場所にはスマホが残されていたわ」 「入口に靴っていうのは?」 「文字通りよ。あなた屋上に上がったことある?」 「何度か上がった事はあります。授業の時に先生と一緒にですけど」  あれは確か地理の授業の時に上がった事があったっけ。他にはなんでか記憶が定かではないが場所の構造は大体想像付く。 「なら奥の四階から上がっていくと扉があるのは分かるわよね。開けると建屋があって それを抜けると屋上の入り口がある」 「入口っていうのはつまり、その建屋内に靴を残していったと」  建屋の中は狭い。屋上入り口以外壁には機械室と書かれた扉が付いているだけだ。そんなところに靴だけ残したというのか。 「そういう事ね」 「な、なんでそんなことをしたんでしょう」  屋上自体は何の変哲もない開けた場所で地面もコンクリートの打ちっぱなしだ。洒落た校舎なら屋上にテニスコートやテラスのように使われる所もあるようだがウチは違うし、そうしたところでもまさか靴を脱いだりはしないだろう。そんな私の考えが通じたのか、 「さーてね。まさか土足厳禁だったって訳でもないでしょうし。寧ろあなたは何か思い当たることはない」と滝田さんも両手を広げて大げさに首を振る。 「ちょっと分からないですね。でも、飛び降りる人って靴を残すとかっていうじゃないですか。そういう事なんじゃないですか」 「フィクションではそういう話も多いけど、実際に投身自殺者が靴を残すって事例はあまり聞かないの」 「そうなんですか」 「それに、もしそうだとしてもなんでわざわざ入り口でかっていうのが分からないわよね。スマートフォンは飛び降りたと思われる柵の手前に置いてあったのにね」 「それは……おかしいですね」 「ええ。おかしな点はまだあるわ。あなた、彼女の亡くなった瞬間を視たのよね」 「はい。視ました」 「ショッキングな事だったらごめんなさいね。彼女の死体そのものは視たかしら」  この期に及んで彼女は私の心理的な傷をえぐる事にならないかという事に気遣いを見せてくれた。が、今更だ。お気持ちだけ受け取っておくことにする。 「もう大丈夫ですよ。えっと、墜落した彼女の姿を見たかっていうことですよね。遠目になら見えました」  そう、ここから確かに見えた。茜色に染まる彼女の制服と地面に染み入る血の赤色を。それは未だに焼き付いている。 「ああ遠目なら気づかなかったかもしれないな。彼女ね、ゴム手袋をしていたの」 「へ? な、なんですかそれ」  私が見た彼女の最後の姿。それを思い出すことにより多少の感傷。それを吹っ飛ばすほどの想像していない状況が耳に入り私はついつい間抜けな声を上げてしまった。
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