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13
「そういえば屋上の鍵はどうしたんでしょう。かかってたんじゃないですか」
そうだ、社会の授業で屋上に上がる時鍵を開けて入った記憶がある。しかもそれを開けたのは私だった。
「そうね。本来はかかっていた筈だったという話……よね?」
滝田刑事は後ろに立っていた品川刑事に水を向ける。それについて調べたのは彼の担当だったようだ。
「ええ、鍵は二つ。一つは職員室内のキーボックス。もう一つは用務員室内で管理しているものです。こちらは施錠管理がしてあったそうです。他にマスターキーが一つありますがこれは用務員が設備管理などをする際に利用する為に担当者が身に付けていました。まあ、この内実際に今回の件で使われたものは職員室の物でしょうな」
「職員室のキーボックス。セキュリティはどうなってたの」
「特にボックス自体を施錠するなどは無し。ザルだったようですな」
「不用心なものね」
滝田さんの言葉を聞きながら思い出していた。私も鍵を借りに行った先は職員室。その時は偶々中に居た先生に声を掛けてもっていったんだったっけ。私がそんな事を想い返していると彼女が重ねて尋ねる。
「彼女がそこから鍵を盗み出した?」
「可能性は高いかと。で、東雲さん。木島香さんという生徒はご存知ですね」
滝田さんに返事をした後、顔を向き直して品川刑事は私に向かって声をかけてくる。
「え、ええ。木島香は友人ですけど彼女がどうかしたんですか」
突然思いもよらない名前。それもよくよく知っている相手の名が飛び込んできて私は面食らってしまう。木島香は入学以来クラスの中でも一番仲良くしている友人だった。でも、
何故彼女の名前が出てくるのだろうか。
「二見えりなさんは貴方に会う前、木島さんに会ってます」
「そ、そうなんですか。でも、それが何か関係あるんですか」
学校内にいたのであれば誰かしらに顔を合わせても不思議ではない筈だ。にも関わらず何故彼女の名前が上がるのか。
「彼女は図書委員だった」
「はい、その通りです」
それは事実である。そして図書委員はいわばシフト制で所属している生徒が持ち回りで受付を行う事になっている。今日は彼女が放課後閉館の十六時まで担当することになっていた筈だ。
「閉館後は本来彼女が鍵を閉める事になっていた。が、何故か今日に限って閉館直前に二見さんが現れたそうです。そして、職員室に行く用事があるから代わりに鍵を自分が返しに行ってあげようかと申し出てきた」
生徒にとって職員室というのは居心地のいい場所じゃない。別に悪い事をしている訳じゃないが、それでもあの扉をガラガラと開けて先生達の中をくぐってキーボックスまで鍵を返却するというのは、色々な意味で面倒くさい。誰だって進んでやりたい事じゃない筈。それを彼女はわざわざ買って出た。
「それで木島さんは彼女に鍵を渡した訳ね」
「ええ。ボックス内には図書室の鍵が確かに戻っていました。が、代わりに……」
「屋上の鍵が無くなっていた訳よね。つまり、そうやって見咎められることなく屋上の鍵を手に入れた彼女は屋上にあがった、少なくともそこまでは自分の意志で」
品川刑事の言葉を引き取る形で滝田さんが続ける。確かにそれで鍵を手に入れる手順は知れたかもしれない。でも、でもでも。
「あの、その鍵は結局どうなったんでしょうか。見つかってるんですか」
「彼女の遺体胸ポケットに入っていたのが見つかってるわ」
つまり死の寸前まで鍵は彼女の手元にあったことになる。が、それを知れても今一つすっきりない。
彼女は自ら飛び降りたのだろうか。でも、そう考えても分からないのは何でわざわざ屋上に上がったのか。百歩譲って飛び降りる目的だったとしてもそこまで手間をかけて学校の屋上を選んだのだろうか。靴の事やゴム手袋の事含めて謎しか残っていない。
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