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「ああ、なるほど。調理実習にも三角巾を使うわね。懐かしいわ~」  滝田さんは三角巾というと応急処置に使うものというイメージが強かったらしい。職業柄かもしれない。本心から感心した様に言葉を漏らす。 「ゴム手袋も毎回使う訳じゃないんですけどはハンバーグとかこねる時に使ったりしたと思います」  つまり手で直接こねたりする工程がある場合に利用する。これも学校にもよるみたいだし、ゴム手袋の代わりにビニール手袋を使う所もあるようだが。 「ふむ。じゃあ、何? 屋上でお料理をしようとしてたとでもいうのかしら」  滝田さんは顎に手を当てて上を見上げながら言う。自分の言葉に全く実感を持ててないようだった。そんな彼女に対して私は言葉を更に重ねる。 「どうでしょう。そうだとしても足りないものがあると思いますし」 「そりゃそうよね。屋上に材料とか道具なんかが揃ってないでしょう。しかも施錠もされてて」 「ええ。そういったものもそうですけど何より調理実習には必要な物が欠けているんです」 「調理実習といえば? 何だったかな、もう随分前の事で覚えてないわ」  学生時代を思い出しているのだろうか首を捻りながらそういう彼女を見て、私はこの人一体何歳なんだろうと漠然と疑問に思ったりもしながら答えを返す。 「エプロンですよ」 「ああ、そっか。そうよね。調理実習と言ったら手袋よりも三角巾とエプロン持ってこいが基本だったわ。忘れちゃったりもしてさ、他所のクラスの友達んとこに借りにいったりしたわ」うんうん首を何度も上下に傾けて言った後、彼女は有吉刑事に顔を向けて聞く「一応聞くけどエプロンとかは見つかってないわよね」 「ないっす。流石にありゃ気づくと思いますよ」  有吉刑事もこれには自信があったのか手帳にも目を向けず答える。 「ああ、そう。良かった」  それに対して滝田刑事はそちらに見向きもせずに答える。 「え? な、何でですか」  有吉刑事は逆にわざわざ聞かれて答えたのにと不満げな様子。それに対して彼女は表情変えずに言った。 「あんた話聞いてなかったの。エプロン何かが出てきたら本当に屋上でお料理しようとしていた説に信憑性が出てきちゃうじゃない」と言った後私に顔を向き直して言う「あ、東雲さん。ごめんなさいね。貴方の言ったことを否定した訳ではないからそこは誤解しないでね」 「いえ。私も彼女が屋上で料理をしようとしてたとは思いません。訳が分からな過ぎますからね」  勿論、私自身もそんな事を本気で考えたわけではない。ただ、その発想、用途自体に意味がないのだろうかとも思う。 「ま、そうね。因みになんだけど、調理実習で手袋使う理由って何故かしら」  滝田さんの問いに一瞬戸惑いながらも回答を絞り出してみる。 「えっと。手袋は手を汚さない為。もしくは、感染症対策……衛生面を考えてですかね」  まあ、手を汚さないというのは兎も角、衛生面に関しては必ずしも当てはまるか微妙ではある。石鹸で手を洗うなりアルコールで消毒するなりすれば十分ともいえるのだ。まあ、だから多分に心理的なものと言えるかもしれない。 「うん。つまり早い話が直接物に触れない為……よね」  私は我ながら微妙な答えをしてしまったと想ったが滝田さんは満足げにしかもズバリと端的に返事をした。 「はい。そういう事だと思います」  私もこれには迷いなく即答した。それに対して彼女は更なる問いかけを重ねてくる。 「じゃあ、三角巾はなんのために頭にするの?」  これに対しては単純明快な理由なので即答できる。 「えっと。これも衛生面だと思います。髪の毛を食材に落とさない様にする為……です」 「うん、そうよね。ありがとう東雲さん。とても参考になったわ」  この話題を持ち出したのは私の方だったが、正直事件に関係ある内容とはとても自信をもって言えない。でも、滝田さんは満足げにそういってくれた。本気なのか、気を使ってくれたのか。いや、或いは私の言葉を滑らかにする雑談の延長のつもりだったのかもしれない。何故なら彼女は続けてこう言ったからだ。 「こちらから言えることは伝えたわ。じゃあ、今度は貴方の番ね。彼女と最後に会った時のやり取り。それから転落目撃の瞬間。話してもらえるわよね」  ニンマリと人懐っこい笑みをたたえてはいるが、眼光は鋭い。心なしか品川刑事、有吉刑事の雰囲気も緊張感を伴った様に感じる。 あちらにとってここからが本題という訳だ。
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