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「あなたが二見えりなさんと最後に会ったのはこの教室なのよね」  滝田さんは座ったまま教室を見回して言う。 「はい。この私の席で学級日誌を書いていました。そこへ二見さんが入って来たんです」  放課後も大分遅い時間で教室には私一人しかいなかった。そういえば何故彼女はあの時間まで学校にいたんだろう。彼女は帰宅部なので遅くまで学校にいる理由はない筈だった。 「それは具体的に何時何分の事か分かる?」 「時計を見てないので細かくはわかりません。けど多分五時にはなってなかったと思います。四時四十五分とかそれくらいじゃないでしょうか」 「つまり本当に彼女が亡くなる直前という訳ね」  結果からするとそういう事になるのか。まさかあの時が最後の会話になるとは思わなかった。 「はい。少しお喋りをしました。」 「へ~。それは興味深いわね。何か手がかりになる様なことを言ってなかったかな」 「いえ。本当に他愛のない話しかしてません。あ、そういえば、好きな人がいるっていってたような……」  そうだ。好きな人がいるって聞かれたから聞き返したんだっけ。 「へえ、それは興味深いな。実際の所はどうだったのかしら。その好きな人っていうの想い人っていう意味なのか、実際に恋人同士だったのか、どちらだと想う?」 「わかりません」  彼女に恋心を抱いていた相手は沢山いたかもしれないが、それが実ったという話は聞かない。ましてや彼女が特定の誰かにアプローチをかけていたということになれば耳に入ると想うのだが覚えがない。 「先ほども言ったけど、彼女の持ち物とかを見てもそうした匂いがするものが見当たらないの。恋人がいたなら電話でもメールでもアプリでも何かしらやりとりをするものじゃないかと想うのよ」  残念ながら私は今まで生きてきて恋人と呼べる相手がいた事はない。でも、友達とは普通にアプリで他愛ないやり取りをしたりしてる。彼氏がいたなら尚更だろう。 「という事は、今現在彼女にはいないっていうことなんじゃないですか」 「でもね、舞台をわざわざ学校に設定している理由。それを考えるとここに関わる人や物が関係しているのは間違いない様に思うの。その上でまず考えるのは男女関係なのよね。例えば彼女、この学校に幼馴染がいたわよね。保健室でもあなたにつきそっていた男の子」 「熊谷君ですか」 「そう、熊谷優斗君。例えば彼がその相手ならばどうかしら。古くから近所に住んでいて、登下校が一緒でも、学校で一緒にいても疑われない。それなら説明が付くと想うんだけどどう?」 「でもそれはない、って言ってましたよ」  その話をまさしくここでしたのだ。でも、速攻で却下された筈だ。 「それはきっと公にはしたくなかったからじゃない。彼女は美人で人気者だったんでしょ。その彼女と幼馴染でしかも恋人同士って事になったら、それこそ嫉妬の対象になっちゃうかもしれないし、比較の対象にされちゃうでしょう。釣り合うとか釣り合わないとかね」  それは優斗君に対して失礼な物言いなんじゃないかと想う反面、納得できる部分もあった。私は委員長として身近に接した熊谷優斗君に魅力がないとは全然思わないけど、口さがない連中が勝手なことを言う可能性は否定できない。が、 「でも、えりなはそんな事気にするタイプじゃないと思いますよ」 「彼女はそうかもしれない。でも、熊谷君はどうかしら。男の子の方がそういうのは気にするんじゃない」 「まあ、プライベートな部分は分かりませんけど、どうでしょうね」  とはいえ、宮前まいさんと真田元気君の間の事も私には分からなかった。隠そうと想えば隠せるのかもしれないが。 「ひょっとしたら、その二人の微妙な距離感が何か関係しているのかも……。なーんてね。喋りすぎちゃったわ、ごめんなさい。悪いけどこの辺の話はまだ内緒にしておいてね。まあ、それも踏まえて彼にも詳しい話を聞いてみる事にしましょうか」  滝田さんの言葉を聞いて、優斗君にちょっと悪いなと想った。ただ私がここで何を言ったところで警察が彼に話を聞くことには変わらないだろうが。
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