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「後はどんな話をしたのかしら。関係なさそうなことでもいいの、思い出してくれない?」 「そうですね……」   私は思い出しつつ熊谷君との過去のこと。家族ぐるみの付き合いだった事。それから彼の姉である熊谷しおり先生の話などをした事を話した。と同時に話の流れで彼女が言っていたある事を思い出して「あっ……」と声を漏らす。 「どうしたの?」 「彼女そういえば、文化祭の事を言ってました」  そうだ。そもそも優斗君が文化祭実行委員の会合に出ていたという流れからそんな話をしたのだ。 「文化祭?」 「はい。文化祭があるんです。ウチのクラスはクレープを売るんですけど、彼女それが楽しみだねと言ってました」 「それはいつやる事になっているのかしら」 「来月第二土曜日曜日です」  高校に入って初めての文化祭。皆参加することを楽しみにしていた。えりなも売り子と調理を交互に担当することになっていた筈だ。 「フーム。その後自分から飛びおりるつもりがあったならそんな事は言わないんじゃないかと想えるわよね」 「それは、分からないですけど。少なくともあの段階では本気で参加したいと思ってる様に見えましたよ」  滝田さんの問いに対して私はキッパリと返事をする。思い返すまでもなく文化祭の事を話す彼女の様子には嘘が無かった様に見えた。 「つまり来月までは生きる意志があったということになるのかな。シナさんどう思う?」  滝田さんは私の言葉に対して軽く小首を傾げながら独り言ちるようにつぶやいた後、品川刑事に水を向けた。 「何とも言えませんな。その後気が変わって自らの意志で飛びおりたのかもしれませんし、誰かに落とされたのかもしれない。または、そのどちらでもない可能性もあります」  彼の言葉に私は少し驚かされた。私は彼女が自分で飛び降りたか、誰かに落とされたかしか考えていなかった。だが、誤って転落した可能性もあるということか。 「事故って線ね。でも、彼女亡くなる前にアプリにメッセージを残しているわよ」 「メッセージだけならそれを打ったのが彼女だとは言えませんよ。例えば、先ほど話題になった文化祭。その様なイベントが行われる際、普段は出入りしない屋上などに生徒が上がる事はありえるんじゃないでしょうか。更に普段とは違う恰好などをする事も考えられるかもしれない。そして学校の行事やイベント絡みで作業をしていたのなら、教員など誰かしらの指示や許可があったことになります。その流れで事故が起こってしまった。すると、教員や学校側の責任が問われる事になる……」 「だから、彼女が自ら飛び降りたかのように工作をしたって訳?」 「まあ、飛躍のし過ぎかとは思います。かなり薄い可能性ですよ。忘れてくださっても結構です」 「うーん。イベント準備で作業をしている過程での事故か。ねえ、東雲さんは今の意見どう思う?」  つまりえりなは学校関係者の意向を汲んで屋上の作業をしている過程で事故死してしまい、それを教員の誰かが隠蔽しようとしたという話になるのか。他人事として聞く分には面白いかもしれないがこの状況だとどう反応していいやら困る。 「いや、どうでしょう。ただ準備をするにはまだ早い時期だとは思いますよ」  そう答えるのが精一杯だった。実際少なくともウチのクラスが本格的な準備に取り掛かるのはこれからだ。 「文化祭じゃないにしても、何かイレギュラーな行事やイベントなんかがあって、生徒が屋上にあがるって可能性は考えられないかしら」 「そうですね、少なくとも私は知りません。そういう事なら先生方に聞いた方が確実と想います」  一つ想い当たる事とすれば彼女が保健委員だったということだろうか、体育祭や身体測定、体力測定などがあった時に動く立場だった。それを一応伝えてみる。 「そう、何か関係があるのかしら。ね。シナさん、有吉君。関係者に話を聞くときには一応この点注意して聞いてみて」 「わかったっす」 「了解。まあ、私の言ったことは単なる思い付きですからな。的外れかもしれませんが……」  滝田さんの言葉に有吉刑事は勢い良く返事をした。対して品川刑事は慎重な物言いをする。 「いいのよ。予断は禁物、でも考えられる可能性を類推することは無駄じゃないわ。それを潰していく事が真相へ至る道筋。想いついたらなんでも言ってちょうだい」 「じゃあ、自分も少し思いついた事があるっす」 「何よ、有吉。あんたも考えがあるっての」  有吉刑事の言葉に滝田さんは冷たい言葉で返す。が、彼は特に気にも留めた様子もなく続けた。 「はい、シナさんの推理を聞いて想いついたんすけど。あの、三角巾が見つかったじゃないすか。調理実習に使う時恰好って話が出てましたけど、デカジョウがおっしゃってた通り応急処置にも使うもんすよね。で、今、聞いた話じゃ二見えりなは保健委員だったそうじゃないっすか。」 「……。まあ、そうみたいね」  彼女は何か引っかかった部分がある素振りを見せたものの、自分の部下が真面目に話そうとしていることは感じ取ったらしい。それにチャチャを入れる様な真似を控えた様で先を促す。 「更に屋上の入り口に靴が置いてあった。どうして屋上に上がったのかは分からないっす。でも例えばっすけど、二見えりなは屋上に上がろうとして、入り口前で足を怪我したとかってことはないっすかね。骨折したとか足をくじいたとか。それで靴を脱いで三角巾を使い足を固定した。で、足元が不安定になったので柵から落ちたというのはどうっすかね」
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