45人が本棚に入れています
本棚に追加
2
彼女の名前は二見えりな。入学早々その姿は目を引いた。
はっきりとした目鼻立ち。手足は言うに及ばず全体的にスラリとした体躯。でも、やせぎすという感じではなく必要なところには程よい肉が付いていることが、白のブレザー越しにも見て取れてしまう。同年代の中でもひと際目立つ見た目に加えて人辺りも良い。
恐らく多かれ少なかれ新たな環境下で甘酸っぱい青春を燃やすことを期待していたであろう男子だけでなく、女子の中にもお近づきになりたいという想いを抱かせるに十分な資格を有していた。
そして実際、彼女はクラスの人気者となる。その中でとりわけえりなの傍に寄り付いた四人の女子グループがいた。秋田ひなというリーダー格を含めた四人組。
みんな見た目が派手で所謂『スクールカースト上の一軍グループ』であることをアピールしている事が明白だった。
学校の校則ギリギリアウトくらいのメイクと制服の着崩しをしていて普通なら絶対目立っていたろう。でも、えりなの飾らずとも放たれるナチュラルボーンな見た目とオーラの前にはそれらも霞むほどだった。
当然ながらえりなの方はそんな彼女らに進んで近づこうという素振りなどという意識はなかったろう。当然だ。一軍アピールをするというのは結局群れなければ何もできない、一人でいる事に自信が持てないことの表れでもある。対してえりなはそんなことをする必要もない。
彼女はどちらかというと全方位外交的にクラスメイト達に接っしようとしていた節がある。それは良く言えば誰に対しても人当たりが良いという様に表向きには見えたのだ。でも、誰かに対して深く付き合うことをするのを拒否するかのような空気も纏っていた。
だからということもあるかもしれない、そんなえりなと親密であるという事がステータスになるという想いがあったのだろう、秋田ひな達は何かにつけてえりなの傍に陣取っては彼女が自分たちのグループであるかの如く振舞った。
えりなも別にそんな彼女らを邪険に扱うような反応はせずに益体のない話にニコニコと話を合わせるくらいの寛容さで接していた。のだが……。
ある時期から急に彼女らの間で露骨に距離が開き始めた。
理由は詳しくはわからないが、秋田ひなグループの中の女子が気になっている男子がいたのだが、その男子はえりなに好意を抱いていたらしく、それが元で関係がこじれたとか何とかというのを風の噂で聞いた。
まあ、とはいえこじれたと言っても元々深い関係でもなかったので、秋田ひな達がえりなから離れたという以外、クラス内の状況は変わらなかったのだが。
クラスの1軍女子の間でこういう事があった時、下手すると、揉めた女子はハブにされたりということもあるのだが、秋田ひなグループは寧ろえりなを後ろだてにするような形でのさばろうとした訳で、そこから離れたら、ただただ浮いた存在でしかなくなってしまったのだ。
とはいえ、ある程度四人そろうと目立っていて自己主張が激しい彼女らの方がいじめの対象になるということもなく、表向きはクラス内での不可侵条約が結ばれたような状態が続くことになる。
そして私にはそんな事本来関係ない筈なのだ。が、クラス委員という立場上、こちらから聞かずとも何とはなしにその内情が耳に入ってしまっていた。
だから、彼女から恋愛話を振られたこの状況での切り返しに迷いが生まれたのだ。
えりなは揉め事の元になった件について気にしている風はなかったし、未だ彼女に気があるであろう男子は大勢いる様だ。
実際何人かから告白されたこともあるらしい。でも、少なくともそれに応じたということは聞かない。
だから、そんな彼女に対して気軽に『好きな人いる?』とストレートに聞くことが躊躇われたのだ。次の言葉を出しあぐねて、無言になる。そんな私に彼女は意外にもこう言葉を返してくる。
「私はいるよ」
最初のコメントを投稿しよう!