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 私は教室に入るとすぐに電灯をつける為に、スイッチを押しにいった。パチッという音と共に明るくなる室内。恐る恐る窓の方に目を向けるとそこにはカーテンが掛かっていた。  カーテンを閉めるのは日直の仕事だが、私は閉めた覚えはない。優斗君が気を利かせてくれたのだろう。  そのカーテンを透かした薄闇の下辺りで灯りが煌めいてるのに気づく。普段その辺にライトなどはない筈だ。きっと警察が何か捜査活動をしている為の明かりだ。 「二見えりなさんの机はどれかしら」 「そこです。一番後ろの窓際から二つ目です」  えりなの席は私の席の後ろに位置していた。姿が見えずともそこにいるだけで感じられる存在感が常にあった。彼女の存在が後ろにいるということは私にとって既に当たり前の様な感覚だったのだが。そうだ、もうその感覚を味わう事はないのだ。 「ここかしら。あら、綺麗なもんね。何も入ってない」  滝田刑事の言葉に我に帰る。彼女の机の中を覗き見ているが空っぽのようだった。 「明日から連休ですから、基本的に持ち帰ってるんじゃないかと思います」 「そっか。三連休なのよね。って事は持ち物は基本、鞄の中って事ね」と言った後『椅子借りるわね』と言ってえりなの席にどっかと腰を降ろした。それにならって私も椅子をえりなの席に向ける形でいつもと反対側に置いて座る事にする。  もう一人の刑事さんにも私が『適当な椅子にかけても大丈夫だと思いますよ』と水を向けたが『いやいやお嬢さん。大丈夫ですよ、お構いなく』と答えたかと想うと、すぐ後ろにあるロッカーにもたれかかる形で陣取った。 「さて、改めてご挨拶しますね。私、○○県警月ヶ瀬警察署の滝田巡査部長といいです。よろしくね」  言って彼女は警察手帳を見せた後に名刺を差し出した。そこには、月ヶ瀬警察署刑事課 巡査部長滝田穣(たきたみのり)と認めてあり、警察署の電話番号と内線直通番号が記入されていた。 「あちらは品川佑(たすく)刑事。もし、今後何か連絡することがあったら、私か彼の名前を言ってください。それから、もしよかったらでいいんだけど、あなたの連絡先も教えていただけないかしら。滅多にないとは想うんだけど、念のためにね」  警察から電話が来るというのを想像して余りいい気持ちはしなかったが仕方がない。寧ろ学校で呼び出しを受けたり、いきなり自宅に電話を掛けられて親が出たりしたらややこしいことになるかもしれない。ならばいっそ教えた方が良いと判断する。 「携帯電話でいいですか」と私が尋ねると「勿論、勿論。捜査以外には絶対に使わないし他所に漏らしたりもしないから、そこは信頼してください」と滝田さんは愛想よく返事をしてくれた。そこで私はルーズリーフのノートに携帯電話の番号を記入して渡した。 「まあ、警察に話を聞かれるなんて緊張しちゃうかもしれないけど、余り堅苦しくは考えないでね。別にあなたは被疑者という訳じゃないので、答えたくないことは答えなくていいし、嫌になったり帰りたくなったらいつでも言ってください。調子が良くないって話だし、気分がまた悪くなったらそれも遠慮なく言ってね」 「はい。わかりました。大丈夫です」 「そう。じゃあ、まず。あなたと二見えりなさんの関係について聞かせてもらえるかしら」 「クラスメイトでした」 「お友達ではなかったの?」 「そう、ですね。教室で休み時間にお喋りしたりすることは結構ありました。でも、そういう相手。他にも彼女には沢山いましたよ」 「人気者だったみたいね。じゃあ、敵が見当たらないタイプ?」 「えっと。どうでしょう」そこで私は言葉を詰まらせる。  勿論、秋田ひな達の事がまっさきに想い浮かんだ。でも、クラスメイトの揉め事を警察にに話すのは何だかやっぱり気が引けた。別にかばいたいわけじゃないのだがそれでもストレートに言葉が出ない。  いや、ひな達以外にえりなを敵と視ている生徒がいないかと言えばそれも微妙だった。彼女はとてもチャーミングだったし、多くの人に好かれていた。テストの結果も毎回上位。スポーツもそつなくこなす。文武両道に秀でている万能なタイプ。 「でも、それが故に嫉妬の対象にもなりやすい。違うかしら」  飽くまで笑みは崩さないまま滝田さんは穏やかな口調で尋ねてくる。 「そういう事もあるかもしれませんね。でも、具体的には……」  思い浮かばないと言おうとする言葉を遮るように、滝田さんはそのまま穏やかな口調を崩さずに言葉を差し挟む。 「秋田ひなさんだったかしら。その子はえりなさんとどういう関係だったのかしら」 「……知ってたんですね」
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