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李凰国の少年 6
黙食が基本であるらしい。広い食堂には数百人が集まっているが、箸や皿の動く音が聞こえるだけである。質素な朝食であるが栄養士が栄養計算をして作っているという。厨房には複数人の大人がいる。皆黙っている。
「なんだ、トマト食えねえのか」
だしぬけに抑えた声が降ってきて篤弘は顔を上げた。夏朗である。笑っている。不意打ちのような登場に篤弘は慌てて箸を置き、胸の前で手を合わせて頭を下げる。
「嫌いなもんは先に食わねえとな」
言いながら夏朗は空いていた向かいの席に座り、机に頬杖をついて篤弘を眺めて笑うがそのさまは随分とくだけている。この時間は俗に言うオフの時間のようだ。
「ガキじゃねえんだから。頑張れ」
トマトを口の中に押し込み涙ぐむ篤弘を観察しながら夏朗はケタケタと笑っている。
朝食の後、洗い場に少年達がずらりと並び、自分の使った食器や箸などを黙々と洗い、それが済むと寝室に戻って自分の寝床付近の拭き掃除を黙々と始める。
その日が平日であればその後、中学生以下の者はこの国の経営する学校へ通い、それ以外は広大な土地いっぱいに広がる畑で農作業、またはこの国が経営する病院や学校などの施設や会社での勤務に励むとのことだ。適正検査を行い、どの職場で勤務するかが決まるという。
その日が土日や祝日であれば茶室にて茶道の稽古が始まり、午後からは剣道や柔道や弓道などの稽古に射撃の訓練、トレーニング部屋でマシンを使っての筋力トレーニング、そして李凰の神が生まれたとされる山の中で走り込みなどが行われるそうだ。
流派の違いはやはり大きく、いくつもの修正を余儀なくされた。
店で働いていた時、数人の客から篤弘の所作はまろやかで優雅だと描写された。女性的だとも。生まれ落ちた旧家で父から仕込まれた所作だ。
その所作が夏朗の手により作り変えられることとなった。より角ばった、直線的な動きの、無骨で逞しい、堂々たる武士の所作へと。
夏朗のすぐそばに正座しての稽古となる。夏朗の大きな手が篤弘の手首や肘や腕などを掴みながら所作を指示する。時には自らが所作を披露しながら。呼吸さえ忘れるほど篤弘はそれに見入る。魅入るとの表現が適切か。
和敬清寂、そして剣を抜く時の動作や構えるさまと融合するかのような所作だ、武士道である。
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