I want to be a dead person!

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 嗚呼。ほら、叶えてあげなくては。  無力な民に代わって。持てる者は、与えなくては。叶えなくては。あの子になりたい。そう呟いて泣いていた彼女を、救わなくては!  でも、わたしは「あの子」を知らない。故に、学んだ。他人の声に耳を澄ませて、テレビやラジオ、新聞から得られる情報を選別して。尋ね、聞き、疑問を抱き、噛み砕き、理解する。  そして、彼女は「あの子」になった。ステージの上、絶望した表情で立ち尽くす彼女は美しくてかわいらしい。「あの子」そっくりだ。演技も上手だし、才能、あるんじゃないかな。  ブザーが鳴り響く。開演の合図だ。さあ、きみが主役だよ。「あの子」が立っていたはずの場所は、もうきみのものだ。堂々と演じるといいさ。  観客席に座って、わたしはひとり。 「よかったね、あの子になれて」
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