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1.
「いただきます」
皆川玲子は起きてすぐ朝食をとるのが日課だった。
今日は丼に下から五穀米、レタス、焼いたハムと目玉焼きを乗せた、ハムエッグ丼だ。米粒ひとつも残さず急いで口の中へかきこむ。
玲子は高校二年生で、現在陸上部に所属している。中学の頃から短距離走選手として活躍し、スポーツ推薦で今の高校に入学した。
現在時刻は朝の七時。朝練は七時半からあるので、時計を気にしながら豚汁に手を伸ばす。昆布と鰹の旨味が具材に染み込んでいて、全部が美味しい。
「ごちそうさまぁ!」
五分で平らげ、キッチンの奥にいる母に聞こえるよう大声で言ってから歯磨きをしに洗面台へ急いだ。
「え、もう食べたの? もうちょっと味わってくれてもいいのに……」
玲子の母は料理研究家で「ジュンコ(本名潤子)」という名前でテレビ出演をしたり、動画配信をしたりしている。チャンネル登録者数は二百万人を超えており、潤子がテレビに出ればその日の日本の食卓には同じメニューが並び、動画をアップすればその日の日本の食卓には同じメニューが並ぶ。それほど影響力のある人物——いわゆるインフルエンサーだった。
生まれた時から食が充実していたため、玲子は食べることが趣味みたいになった。常にお腹が空き、食べればすぐ回復する。太らない体質なのか、いくら食べてもお腹が出ることはなかった。陸上部で身体を動かしているということもあるのだろうが、両親ともに細身なので横に大きくなることはないようだ。
「行ってきまーす!」
「あ、こら、玲子! お弁当!」
「ありがと母ちゃん。じゃ、行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい」
スポーツバッグとお弁当箱を自転車のカゴに乗せ、出発する。教科書を入れたカバンはない。全部学校に置いていた。学校は部活動をしに行くところだと思っている。
今日も部活頑張るぞ!
玲子は立ち漕ぎで自転車を走らせた。
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