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玲子の玲には宝石や清らかといった、透き通るように美しいといった意味がある。両親はそのことを踏まえて「まっすぐ綺麗な心を持ちながら、宝石のように輝いた人生を送って欲しい」というような願いを込めて「玲子」と名付けたらしい。欲をいえば玉のように美しく、おしとやかでいて欲しいとも思ったようだが、その願いに反して玲子は逞しく育った。
「あー……腹減った……」
朝練を終え、一限目の授業が始まるまであと五分。玲子は机に頬を押し付けてお腹を抱えていた。前の席に座っていた朝比奈陽葵が「もー、玲子ちゃんったら」と苦笑する。
「まだ一時間目さえ始まってないのに……」
「だって朝練したら腹減るんだから仕方ないじゃん。陽葵なんか持ってないの」
「そう言うと思って、マフィン作ってきた」
「神!」
陽葵が可愛らしい袋にラッピングされたマフィンを玲子に渡すと、玲子はラッピングに目もくれずガサガサと開けて頬張り始めた。
陽葵は玲子とは正反対でおしとやか且つ癒し系の女の子だ。中学からの友人で、お互いを良く知っている。玲子の両親はきっと陽葵のように育って欲しかったのだと思うが、今更女の子らしくなんてなれない。髪の毛は邪魔にならないショートカット、スカートの下には見えてもいいようにハーフパンツの体操ズボン、手首には陸上部のマネージャーが作った青系統のミサンガ。肌も日に焼けた小麦色で、見るからに体育会系である。
「うめぇ。やっぱ陽葵の作るお菓子は最高だな!」
「ふふっ。それはよかった。お茶もあるよ。はい、どうぞ」
「サンキュー」
陽葵が作ってきたマフィンはチョコバナナマフィンで、外はサクっと中はふんわりしていた。熟したバナナを使っているのか非常に甘く、チョコチップとの相性は抜群だ。
やっぱり陽葵はあたしの嫁に来て欲しい。
玲子はいつもそう思う。
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