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「撃つのをやめろ!」
その言葉で、銃口が降ろされる。
一先、危機は脱した。
「なんだ、まだ宝石を流せるんじゃないか」
不気味な笑顔を浮かべたまま、私に近づいてきた。
足が止まる。
それでも、男は一歩ずつ近づいてきた。
私は無意識の間に退いていた。
あたりを見渡した。
銃を持っている数十人の警備隊、少しずつ近づいてくる白服の男、私が歩いていく背中を見ていた住井、淡く輝くアメジスト
ふと、我に返った住井が私の手を取り、もう一度走り出した。
警備隊の隙間を無理やり通り抜け、走り出す。
「ちっ、あいつら。実験体にはまだ役目が残っている。殺すな。日本人は殺せ。」
扉が近づくと、銃声が聞こえた。
私は住井を見た。
住井は私が見ていることに気づくと、笑顔を見せた。
足が撃たれて血が出ているにも関わらず、私を心配させないように笑顔を作っていた。
その笑顔は、昔、山奥で住んでいたときの母と同じ、痛みを隠した笑顔だった。
扉の前まで来た。
ドアノブを力強く回し、外へ開く。
白い太陽の光が私たちを包んだ。
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