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村の人は私から離れようと急いで支度をして、ソリに乗って出ていった。
今日は久しぶりの晴天だから冬眠明けした熊が出てくるのに。
今は、モーターボートが《シベリア》や《ウラジオストク》では有名なのだが、私達の住む辺境の地ではまだソリしかなかった。
母の健康維持や、近所の人と話すなどという普段することが何もできない状況に、頭が呆けてきた。
そんなとき何故か昔話を思い出した。
遠い昔、辺境に貴族が住んでいた。
その貴族は、涙が宝石に変わるという異様な体をしていた。
異質な体質は、その子供にも孫にも受け継がれ貴族は宝石を売った資金で、とても裕福に暮らしていた。
しかし、それも束の間、涙の結晶の副作用が分かった。
結晶は涙腺の下にある結晶管によって作られ、そのときに副作用が現れる。
寿命を削り、記憶を削り、体の一部を削り、その人にとっていちばん大切なものが削り取られていった。
しかし涙を作るのには色々と条件があるらしく、
嫉妬や、強欲、後悔など《負の感情》を抱いた時の涙だけ宝石になるらしい。
大切なものが削り取られるせいで、結晶を生み出す人は全員が不幸になった。
昔の人はこれを神の怒りだと言い伝えた。
こういう昔話が、本当にあったと、伝承として伝えられている。
戯言だと思っていたのに、それが自分と母だったなんて。
母は寿命を削っていたようだ。
最後に流した数滴の涙で僅かに残ったすべての寿命を使い尽くしてしまった
母はあまりにも若い年で私を産み、若い年で老衰死した。
私は、母が死んで悲しい気持ち、村の皆が居なくなって寂しい気持ち
「こんな気持ち、、、、二度と味わいたくない、、、、、、、、、」
そして、私は、寂しさと悲しさの感情を失った。
どうやら私は感情を削っているらしい。
嫌なことは二度と感じなくて済むので、私にとっては良かったのかもしれない。
私は一人で此処では過ごせないので村を出ることにした。
山の上から眺める景色はすべてが雪で、地球ではない何処かにいる気分だった。
雪に深い足跡を残しながら、ソリの跡を辿っていると、血溜まりがあった。
そこには、さっき出ていった村の人の肉片が散らばっていた。
いつも優しかった農家のおばさん、お節介の鍛冶屋のおじさん、、、、
私は運良く熊がご飯を食べて戻っていった頃に此処に来たらしい。
「村の優しかった皆が死んで悲しい、、悲しい、、、、悲しいってなんだっけ、、、、、、」
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