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第四話 「つなぐ」
一連の事件が去ったあと、意識不明の飯田結衣は横浜市内の大学病院へと搬送された。そして、結衣に同行して、鈴音も病院へと訪れていた。
場所は結衣の病室。
スマホを取り出し、現在時刻を確認する。あの事件からもう二時間経つであろうか。体感にしてはあっという間の時間が流れていた。
搬送された結衣は未だに意識が戻らない。一通り検査は終えたのだが、何か緊急で手術が必要だとかいうこともなく、また病院側の反応から見ても、大きな外傷はなかったのだろうと思う。
結衣の両親にも連絡しており、仕事を早めに切り上げて、しばらくしたら病院に現れるようだ。
「はぁ…。」
鈴音はベッドサイドで腰掛けながらも、安堵にも疲れにも取れるため息をこぼした。
たった二時間前に起こった死闘。本当に命を懸けた戦いであった。下手をすれば、私も結衣も、そして神楽ですらも命を落とす可能性があった。そう考えただけで、今でも胸が詰まる思いだ。
「ぅ…。」
「ゆいちゃん…?」
どうやら結衣の意識が戻ったようだ。結衣は小さく息を漏らし、ゆっくりと病室の天井を見上げた。
「ゆいちゃん!気がついたんだね!」
「こ、ここは…?」
結衣はきょとんとした顔で鈴音に問いかける。鈴音がいることは分かっているが、場所が認識できていないようだ。だが、しばらく時をかけて徐々に自身の状況を理解していく。
「ここは病院なんだね…私は…」
そのとき、結衣は突然の頭痛に襲われ、呻き声を上げながら両手で頭を抱え出す。
「ゆ、ゆいちゃん大丈夫!?今看護師を…!」
そう言ってナースコールに手を伸ばそうとすると、結衣は下を向いたまま広げた手を鈴音の前にかざし、静止させる様子を見せる。数分後、頭痛が落ち着いたのか、結衣はゆっくりと言葉を話し始めた。
「私、病院にいることは分かるんだけど、なんでここにいるか覚えてないの…。最後に覚えてるのは体育の授業が始まった時で、それ以上思い出そうとすると、頭が…。」
「そうなんだね。大丈夫、ゆっくりでいいからね。」
「うん…ありがとう。」
そのあと、鈴音は結衣と話を重ねたが、どうやら悪魔と契約して支配された後の記憶は覚えていない…というよりロック(頭痛)が掛かったかのように思い出せなくなっていた。
悪魔のことについてだが、それ以上は触れなかった。理由は簡単、触れる必要はないからだ。それにきっと、彼女も悪魔と契約をしてしまったことは勘付いてはいるだろう。彼女も、自分の身に何が起こったのか、そのことを聞くことはなかった。だけど、彼女は最後にこう言い残した。
「私、なぜかわからないけど心がスッキリしているの。」
「心が…スッキリ…?」
「そう…。」
結衣はそう言いながら、胸に手を当てる。
「私、今までとっても苦しかった。私にはなんの取り柄もないんだって、何のために生きているんだろうって、ずっと悩み続けてきた。でも、その時に誰かの声が聞こえたの。私にも良いところはあるんだよって。こうなる前の記憶は何も無いけど、その言葉は私の心に残ってるの。」
結衣が口にしたその言葉は、鈴音が悪魔に呼びかけた時の言葉であることを、鈴音は知る。
悪魔は契約後には魂ごと喰らってしまう。けれども、鈴音の思いはしっかりと結衣の心に届いていた。
「今はまだ、私が自慢出来ることは何も無いけれど、だからこそ――」
彼女は息を小さく吸い込み、言葉を繋いだ。
「――私の、私というものを、ゆっくりでも見つけていきたいっ、」
「うん…!ゆいちゃんならきっと見つけられる!私も、応援する!」
二人は涙目になりながらも抱きしめ合い、体を寄せあった。
彼女は、「才能のある者を妬む思い」が具現化し、悪魔として事件を起こした。だが、彼女は変わった。彼女は悪魔に抗う力を身に付けた。だからもう、心配はいらない。これからも、きっと…。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
結衣の意識が戻ったことを確認した鈴音は、猿之助からの連絡で示された、とある診療所の前に訪れていた。
「地図情報だと…ここなんだけど…。間違えたかな…。」
住宅街の外れにある、壁が灰色に薄汚れた診療所。壁にはツタが張っており、建物に付けられた看板は豊川診療所と辛うじて読める…という具合である。雰囲気はまさに心霊スポット。日中のため、まだ怖さは緩和されているが、このような診療所に果たして二人はいるのだろうか…。
「よぉ来てたんか!来てるなら連絡してやー!」
横から声が掛かり、思わず肩を上げて恐れながらも姿を確認する。するとそこには、「自宅警備員」と書かれたTシャツを着た細身の男が立っていた。
「なんだ…猿之助さんか…。」
「驚かせちゃったか、悪い悪い。まぁ、とりま中に入れや。」
「な、中に…。」
猿之助が診療所へと先導するも、なかなか足が踏み出せない鈴音。足音が聞こえないことに気がつき、振り向いた猿之助はその様子から察し…
「あ、あぁ!こんな見た目やが、中は綺麗やで!それに心配しなくてええ、虫とか幽霊とかそういうのは一切出んから!中の安全は保証する!」
「そ、そうですか…?」
そう言われ、恐る恐る足を踏み出す。
ちなみに今まで言ってなかったが、私は大のホラー恐怖症である。故に、この診
恐る恐る歩みを進めた鈴音だが、自動ドアを開けた瞬間雰囲気は一転。何と中は想像できないぐらいに、綺麗で整えられたクリニックだったのだ。床はフローリング、照明は暖色の明るい色。ソファーも完備されており、恐れる要素は一つもなかった。これには身構えていた鈴音も思わず驚き、入口で棒立ちになって唖然とする。
「また困惑させてしまったようやな。とりま、神楽のいる部屋まで歩きながら話そうや。」
猿之助が「こっちや」と手招きで先導をし、二人は廊下一直線のを歩きはじめる。
「実はこの診療所はな、もう今はやってないんや。せやけど、中の整備はちゃんとしておってな、それが理由でこんなことになってるっちゅーことや。」
「そうなんですね…。そういえば、猿之助さんは親が医者とかなんですか…?」
「あぁ、両親とも医者や。今は父しか働いてへんがな。うちは家系で、この診療所は祖父が経営し
たんや。けど両親は、ここは継がずに新たな場所で経営したいっちゅーてな、それでここは使われなくなったというわけや。ほな、ついたで。」
話しながら歩いた先には、診察室と書かれた扉があった。その扉を猿之助が開けると、その先には病衣姿の神楽がベッドに横たわっていた。
「あぁ、来たのか…。」
「神楽くん…!大丈夫っ…じゃないよね…。」
四肢には止血用のガーゼやテープが施されており、右腕は三角巾で固定をされていた。明らかに大丈夫な状態ではなかった。
「あぁ…どうやら腕から肩にかけて所々骨が折れかけているらしい。あとは体のあちこちが傷だらけになってしまった。」
「そうなんだ…。」
神楽は軽々とそう言うが、原因を作ってしまった私はかける言葉が見つからない。そうして、二人の間に長い沈黙が生まれる。その様子を見た猿之助は、その沈黙を破って神楽に言葉を掛けた。
「いやぁ、でもあれだけ吹っ飛ばされていて、よくそれだけ持ったな!今回はもっと重症かと思ったんやが…」
「まぁ吹っ飛ばされるのは初めてじゃないからな。何とか筆を使って受け身を取ったりとかで、衝撃は和らげていたよ。普通にぶっ飛ばされてたら死んでるだろうね。」
二人はそう言いながら笑い合う。
二人からしたらこのレベルの怪我はまだ笑い話で済むのだろうか。今日、初めて悪魔と戦った私からしたら、笑えるような状況ではなかった。
「おや?お客さんが一人増えたみたいだね?」
その笑い声に釣られて部屋の奥からやってきたのは、白衣を着た一人の女性であった。
「知らない女の子だね。初めまして、私は豊川あかり。猿之助の母親です。よろしくね!」
「は、初めまして…結城鈴音と言います。よろしくお願いします。」
女性から差し出された手のひらに、鈴音も手を重ねて握手を交わす。
情報から推測するに、どうやらこの方が猿之助の母親であり、医師であるということだろう。つまり、神楽を治療しているのは猿之助の母親ということなのだろうか…。
「とりあえず、今回は擦り傷や刺し傷が多いのと、腕の骨が折れかけているから固定させてもらったわ。まぁ一ヶ月ぐらいはそのままになるかもね。といっても、神楽くんの回復力は強いから、もう少し早いかもしれないけど。」
「そうですか…。」
あかりの話を聞き、神楽は自身の腕を見ながら落胆の顔を浮かべる。右腕は生活上過ごす上でも、武器を持つためにも必要な部位。そこが思うように使えないとなれば、大きく落胆するであろう。
「とりあえず、処置は終わってるから私は戻るわね。話もあるでしょうし、あとは好きに使っていいわ。猿之助、頼むわね。」
「あぁ!ありがとう、おかん!」
あかりは全てを猿之助に託し、その場から去っていった。
「色々驚いたやろ?悪魔と戦った時はこの場所で治療を行なっとる。おかんの協力の元な。本当は他の病院で治療した方が良いこともあるんやが、それだとわいらの活動がバレてしまうからな。最も、神楽は、その心配は無いんやがな…。」
「そうだったんですね。じゃあ猿之助さんのお母さんは活動を知ってる感じですか…?」
「猿之助って呼ばなくてええで、呼びずらいだろうしサルとかって呼んでくれ。」
「さ…」
さすがに初対面の人にサルと呼ぶのは少し抵抗があった。そのため、鈴音は考えた。結果――
「――じゃあサルさんって呼ばせてください!」
「お、ええで!」
とりあえず、猿之助のことはサルさんと呼ぶことにした。
「で、さっきの質問の回答やが、わいの両親は活動を知ってる。せやけど口外したりはせーへんで?知っていながらもそれを言わず、協力してくれてるんや。まぁそんなとこかな。」
「そうなんだ…いい両親ですね!」
鈴音は幼い頃に両親を悪魔によって亡くしている。だから、このような両親との関係を聞くとなんだか憧れる。自分の両親がもし生きていたら、私との関係はどうなっていたんだろうか…。
「せやろせやろ、自慢の両親や!そういや、この流れで自己紹介もしよか。未だ、お互い何も知らないままやからな!」
「そうですね!」
鈴音は猿之助の提案に頭を頷ける。
思えば、学校で会ってからというもの自己紹介すらしていなかった。
「えー、改めて!ワイの名前は豊川猿之助や!年齢は大学一年生で神楽の一個上やな!神楽の守り人に所属してから、神楽とは長年の付き合いになるわ。ってなわけでよろしくー!」
「ゆ、結城鈴音です!高校2年生です!よろしくお願いします!」
自己紹介をした後に、猿之助が自身の右手を体の前に差し出す。それを見た鈴音も、自身の右手で合わせて握手を交わす。
神楽、鈴音、猿之助。ここに神と契約を交わした特別な3人が揃った瞬間であった。
「…あ、あのそういえば一つ疑問なことがあったので聞きたくて…。さっき結衣ちゃんが目を覚ましたんですけど、結衣ちゃんは事件についての話が記憶からないらしくて…これって悪魔に支配されるとみんななるものなんですか…?」
なぜ事件の時の記憶が無いのか。そして、これが悪魔と関連するものなのかを知りたかった。なぜなら、もし関連しないのであれば、結衣ちゃんは脳などの問題で記憶喪失になっている可能性が出てくることになり、また別の問題が発生してくるからだ。
「あぁ…そのことについて説明しよう。」
そう言いながら、横になっていた神楽はベッドから起き上がり、ベッドサイドに座った。その様子を見た2人も、そばにあった椅子に座り、聞く体勢を取る。
「まず結論として、事件に関しての記憶喪失は悪魔に支配された者に必ず起こる共通事項だ。そして原理は簡単。悪魔と契約すると、その人の肉体や魂は悪魔に支配されることになる。当然、脳の機能も悪魔に支配されることになるから、契約後の記憶は契約者の方ではなく、悪魔の方へと流れ込むことになる。しかし、悪魔を倒すと契約者と悪魔の繋がりは消え、契約中の記憶と共に悪魔はこの世から消え去り、逆に契約者はその記憶だけがすっぽり抜けた状態で目覚めることになる。だから契約中に起こった出来事の記憶喪失は普通の反応、心配はいらないよ。」
「そっか…良かった…。」
鈴音はその話を聞き、胸を撫で下ろす。
「――とはいえ、悪魔という生態は不安定なものだ。時と場合、さまざまな環境要因によって一体一体の生態は大きく変わることもあるんだ。だから、あくまで一般的な悪魔の特徴として捉えて欲しい。」
悪魔の生態は不安定。
今まで出会った悪魔を思い返して見ても、自身が契約していた人型の鉤爪悪魔、結衣が契約した巨人型の悪魔、そして家族が奪われた鬼の悪魔…。確かにどれも戦い方や特徴が違っていたと頷ける。
「この神楽の守り人が始動してから二年。まだ悪魔についても研究が進んでおらん。予想外のことが起こるかもしれへんことも、頭に入れといてくれや。」
「…分かった。分かったんだけど…」
鈴音はそう前置きを置いて言葉を繋いだ。
「さっきから言っている神楽の守り人っていうのは何…?」
「何って…え?」
猿之助は思わず困惑の声を上げる。なぜなら――
「――もしかして、まだ神楽の守り人に入ってへんのか…!?わいはてっきり入ってるかと…」
――鈴音も、神楽の守り人へ所属していると思っていたのだ。
その真偽を確かめるため、 猿之助は神楽の方へと顔を向け、その視線を受け取った神楽はこくりと気まずそうに頷きで返す。
「そうなんや。じゃあ神楽の誘いで神と契約したわけではないっちゅーことやな?」
「あぁ、そうだ。この人はただのストーカーだ。うちまで跡をつけてきて、勝手に神様と契約したストーカーだよ。」
勝手に神様と契約したストーカー。その言葉にカチンときた鈴音は、噛み付くようにこう言った。
「いやいやいやいや!言ってることはあってるけど、ちがぁあう!ストーカーしてたのは百歩譲って認めるけどぉ…勝手に契約したわけじゃないもん!神楽が契約方法を教えたのが悪いだもん!」
「いーや違うね!君は紛れもなくストーカーだし、契約方法を言ったのも母が圧力を掛けてきただけにすぎない!第一、君を誘った覚えはない!そもそも俺は反対派だったんだ!」
「なにぃぃい!?」
二人の唾が飛び交い、口喧嘩がヒートアップしそうになったその時、二人の中央で大きな拍手が二回鳴った。
「2人ともそこまで!今大事なのはどうしてそうなったかの過程やない、これからどうしていくかや!」
「「ううっ...」」
猿之助の至極真っ当な意見に、二人は出かかっていた言葉をぐっと喉の奥へと飲み込ませる。
「何があったかは分からへんが、嬢ちゃんは既に神と契約した神器の使い手。ほんなら、次に考えるべきは嬢ちゃんの立ち位置や。」
「…と言うと?」
鈴音は具体的な説明を猿之助に求める。
「つまり、嬢ちゃんが神楽の守り人に入るか入らないかってことや。創設者、まずは神楽の守り人について説明してくれや。」
猿之助は会話のリードを神楽へと引き継がせる。リードを渡された神楽は目を細めて少し気怠そうに説明をしだした。
「あぁ…分かった。神楽の守り人っていうのは二年前に立ち上げた団体だ。そこへ集まるのは、神と契約した神器を持つ使い手のみ。活動目的は、悪魔の討伐と研究。二年前ぐらいから悪魔の強さが増してきたこともあって、神器を持つもの同士が共闘し、情報共有をすることで悪魔に対抗しやすくさせるために立ち上げたんだ。所属人数は俺とサル、あとは妹と他にも二人…合計五人で活動している。」
「なるほど…。妹さんもそうなんだ…。」
神楽の妹と初めて会った時、神器や神というものについての知識があったため、もしかしたらと思っていたが、やはり契約者であった。しかしながら、神楽の守り人へ入ったらあの妹とも協力することになるということ。あちらからは謎の敵意…というより極度のブラコンによって嫌悪されているため、あまり関わりを持ちたくは無いのが本音ではあるが…悪魔に対抗するために組織を立ち上げるというのは理にかなっているとは思う。
「鈴音が入ってくれたら悪魔へ対抗できる力は増す。しかし、本音を言わせてもらうと、君を神楽の守り人に入れたくはない。というより、本当は戦わせたくもないんだ。君も知っているだろ?神器を持つものは代償を支払うということを。」
「代償…。」
「あぁ、そうだ。契約者は力を使う度に代償を支払う。それはそんな軽く見ていいものじゃないんだ。物によっては取り返しのつかなくなるものもある。だから、もし入るのであれば代償を答えてほしい。」
神楽は真剣な眼で鈴音に詰め寄る。しかしここで――
「ちょっと待った。」
猿之助の仲裁が入る。
「神楽、いくら何でも代償を聞くのはあかん。契約内容はプライバシーにあたる。それは、神楽が一番よくわかっとるはずや。」
「ッ…!だけど…!」
猿之助の言葉に反論しようとしたが、その寸前で神楽の口は止まる。
「そう…だな。確かにその通りだ。鈴音、すまなかった。」
神楽は目線を逸らしながら、謝罪の言葉を述べる。
「嬢ちゃんがおってくれたら悪魔に対抗出来る力になる。そして何より、神楽の力にもなるはずや。自分は入れるべきやと思うけどな。」
「はぁ…お前も俺のお母さんみたいなこと言うんだな。」
「それはな神楽、わいもお母さんも神楽を心配してるからやねん。最近の神楽はちっと無理しすぎてる、こんな怪我もするようになってな。これからも悪魔は強くなってくると思う。それに、契約者を亡きものにしようと狙うやつもおるから、そやつらにも力を合わせて戦わなあかん。だから…な?嬢ちゃんも頼むよ。入ってくれるか…?」
猿之助が静かに鈴音へと問いかける。
神楽の守り人に入ることはすなわち、悪魔討伐に命を捧げるということだ。今回の巨人の悪魔との死闘。そのような命をかけた戦い…いや、それ以上の戦いだって待ち受けているかもしれない。果たして、自分にその覚悟はあるのだろうか。否、覚悟はとうに決めたはずだ。
「――私は大切な人を守りたい。だから、やります。やらせてください!」
「せやって神楽。どうする?」
神楽は目を瞑り、悩める頭を必死に回転させる。
自分の承諾ひとつで、この子の未来が決まってしまう。戦う末で命を落とすかもしれない、大きな代償に蝕まわれるかもしれない。神楽としてもそれは避けたいことであった。だが、猿之助が言ったように、悪魔の力が増してきているために、悪魔に対抗する契約者の人数不足がシビアな問題となってきているのも事実だ。今日戦闘した巨人の悪魔。あれだけの大きさとパワーを持つ悪魔は滅多にいるものでは無い。まだ知能が低かったことや動きが鈍かったこともあって何とか勝てたというのが正直なところである。もしこの先も悪魔のパワーのインフレが続くと仮定するなら、今回の戦闘状況も加味して、人数の力というのは必ず重要となってくるだろうと予想できる。だからこそ、悩む。
「…。」
しばらくの時が沈黙のまま進んだが、神楽はついに目を開け、そして決断した。
「…分かった。神楽の守り人として君を受け入れる。だが、ここぞという時のみだけ解放術は使ってはならない。解放術は代償を大きく伴う。だから、その条件だけ飲んでくれ。」
「...分かった、約束する。」
こうして、鈴音は神楽の守り人の一員として人生を歩むこととなった。それと同時に、鈴音は悪魔討伐への意志を強く、固く、心に誓うのであった。
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