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そのとき、背後から男の声がした。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
それが祥平との出会いだった。
しかし、そのときの私には彼に見とれている余裕などなかった。
シャッターに当てた手が、だんだんとしびれてくる。そのまま路上にかがみこむ私の目に、心配そうな彼の顔が映った。
祥平は私の背中を優しくさすってくれた。おかげで、しばらくするといくらか気分が良くなってきた。
私は初めて彼に話しかけた。
「どうもありがとうございます」
「どうですか、気分は良くなりましたか?」
「ええ。おかげさまで。もう大丈夫です」
「良かった。じゃあ僕はもう行きますね。体に気をつけて」
そのときはまだ、彼の名前も知らなかった。
私は去っていく彼の背中を目で追っていた。
素敵な人だったな……。でも、もう二度と出会うことはないだろうな。そう心の中でつぶやいた。
しかし、その予想は裏切られることとなる。私にとって都合の良い形で。
後日、私は上司の命令で、新しい取り引き先の部長と会うことになっていた。
相手の会社の応接室で待っていると、入ってきたのがあのときの彼、祥平だった。
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