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「次、選択教科の説明会だろ。いこーぜ」
「あ、そだね」
柿崎は立ち上がった。
1年では生物と化学のどちらも授業で学んだが、2年からは生物に化学、それに物理を加えた3つから先行することになっている。
「生物が生物室。化学が化学室。物理は多目的室かー。どれにする?」
黒板に担任が書いた文字を見ながら、沢渡が聞いてくる。
偏差値の低い彼がどれも不得意なのはすでに知っている。
「んーどうしよっかなー」
柿崎はスマホをポケットに入れながら答えた。
偏差値の高い自分はどれも得意だ。
ここは適当に沢渡に合わせた方が無難か。それともあえて違う授業をとるか。
――悩みどころだな。
「沢ちゃん、待ってくれよぉ!」
必死でついてくる中林を振り返りながら、その奥に視線を向けた。
「君はどれにするの?」
ついさっきまで女子に囲まれていた転校生が、その輪から外れ、小柄な男子生徒に話しかけている。
「ーーアレだよ。泉って」
沢渡が顔を寄せてくる。
「見るからに、だろ?」
柿崎はもう一度泉を見つめた。
確かに小柄で目が大きく、病的に色白で、女子のような風貌をしている。
「あ……お、俺は生物にしようかな、って」
彼は急に話しかけてきた転校生を見上げきょどりながら答えた。
「偶然。俺もそうなんだよ。ちょうどよかった。生物室まで案内してもらってもいいかな」
倉科はそこで初めて笑顔を見せた。
「何あれ」
先ほど倉科を囲んだ女子たちから冷たい声が漏れる。
そうか。この男は、自分に寄ってきた女子たちをあしらって泉に話しかけたということか。
「スカしてるな、転校生。キミだってよ」
沢渡がまた顔を寄せる。
「……いいけど、でもその前に、購買に寄ろうと思ってたんだけど……」
泉がガタガタと椅子を鳴らしながら立ち上がる。
「願ったりだ。購買の場所も教えてよ。何が売ってるのか、チェックしときたいな」
倉科は柔和な微笑みのままそう言った。
「あ、いいよ。文具の他にもおにぎりとかパンも売ってて。でも昼休みはすぐ売り切れちゃうから、中間休みに行った方がいいんだけど。そこで売ってるパン屋さんがメロンパンで有名な―――」
「あーあ。調子に乗っちゃってまあ……」
調子にのってというよりは緊張のためにペラペラ話しまくっているようにしか見えないのだが、そんな泉を沢渡が低く笑い、中林がそれに合わせて下卑た顔を作る。
「アイツ、あとでお仕置き確定だわ」
沢渡はそう言うと、泉を見ながら口の端を引き上げた。
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