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都内は都会よりも田舎の方がガラが悪いと祖母が心配していたが、いざ来てみれば山間にある城西高校とそこまで大きな違いはなかった。
倉科は職員室で事務手続きを済ませると、静かに立ち上がった。
「まあ、向こうではいろいろあったんだろうが、そういうのはクリアにして、短い期間だが高校生活を楽しめよ」
教師のその言葉は「こちらでは揉め事なんか起こすなよ」とも聞こえた。
倉科は黙って一礼すると、職員室を後にした。
別に説明する気はないし、理解を求めてもいない。
たった4ヶ月過ごす学校という名の箱は、学問が習得出来て、例の事件以降、心配ばかりしている母と祖母を少しでも安心させられる場所でさえあればいい。
そうは思っていても―――。
「夏目!!」
その時、後ろから声がして倉科は振り返った。
「一緒に帰ろうぜ!」
ツンツンと髪の毛を立たせた男子生徒が、一瞬、かつての親友と被って見える。
しかしよく見ればーーいや、よく見なくても別人の彼は、倉科を追い越して前を歩いていた女子生徒を呼び止め、やがて2人で手を繋いで歩き出した。
「…………」
今度は繋いだその小さな手が、かつて自分の手の中にあった彼女のそれと重なる。
――やっぱり、学校は嫌いだな。
倉科は視線を窓の外に向けた。
「……あれは……」
誰もいない放課後の中庭。
ベンチの脇で誰かが蹲っていた。
よく見るとそれはクラスメイトの泉だった。
「……何してるんだ……?」
もしかしてまた沢渡とかいうクラスメイト達に何かされたのだろうか。
掃き出し窓から飛び出そうとしたところで、
「今帰り?」
後ろから今度こそ自分に向けた声がした。
振り返るとそこには、沢渡の隣にいた男子生徒が、コンビニで買ったらしいコロッケパンを持って立っていた。
「君は……」
「柿崎。覚えてよね。もう」
柿崎は中間休みに話した時とは比べ物にならないほど大人びた表情でため息をついた。
「ーー何見てたの?」
その問いに振り返ると、中庭にはもう泉の姿はなかった。
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