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誰かを導こうとしても、
誰かを救おうとしても、
誰かを守ろうとしても、
全部うまくいかなかった。
空回りはひずみを作り、ひずみは裂け目を生んだ。
誰のことも助けてあげられなかった。
虐められていた友人も、
叶わぬ恋心を抱いていた親友も、
人生で初めて好きになった人も。
「結局のところ、弱いものを守るためには、強いものを倒すしかないんだ」
そう言った倉科を、
「こっわい顔」
柿崎は笑った。
「ま、倉科が心配しているようなことは俺の目が白いうちは起こさせないから安心してよ」
立ち上がった柿崎に、
「俺の目が黒いうちは、だろ」
倉科は吹き出した。
「うっさい」
柿崎はそう言い残すと、中庭を後にした。
あの自信ありげな表情を見るに、本当に心配はなさそうだ。
ときおり泉のことを気にかけてさえいれば―――。
―――そう言えばさっき、泉は何を見ていたんだろう。
倉科はベンチの影をのぞき込んだ。
「……!!」
そこには、自分の親指ほどの大きさがあるムカデがうねっていた。
それに真っ黒な数十匹のアリがたかっている。
蟻というのは蟻酸という毒を出し、自分より何十倍大きな虫を麻痺させることができると聞いたことがある。
つまりムカデが蟻を襲おうとしたところが偶然運悪く蟻の巣の近くで、中にいた仲間たちがこぞって出てきて一斉に攻撃したということだろう。
――いや、待てよ……。
本当に偶然だろうか。
本当に運悪く、だろうか。
もしだれかが故意にムカデを蟻の巣の前に置いたのだとしたら―――。
「……!」
泉の暗い穴のような瞳を思い出し、倉科は中庭でひとり身震いをした。
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