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「おっと倉科君!」
皆の注目を集めたからか、先ほどからハイになっている山田が倉科の前に進み出た。
「そんだけ綺麗な顔してモテると女に不自由しなそうなのに、君って結構アブナイ奴だったんだね!?」
猿に似た原始的な顔をニヤニヤと歪ませる。
「セックスとレイプは別物なんだ?」
「…………」
一瞬で教室の空気を理解したらしい倉科は、視線を皆に一巡させると、静かに席についた。
「否定なし!!否定なしですよ!みなさん!」
山田が短い人差し指を立てる。
「こっわ!クラスにレイプ魔がいるとかこっわ!!女子の皆さん、気をつけてね!」
耳障りな声で言うと、ざわざわと女子たちが悲鳴に似た声で騒ぎ出した。
問題ない。
問題はない。
だけどーーー。
「こらこらー!ここで否定しとかないと、暁斗くん!」
柿崎は倉科の肩に肘を置いた。
「……は?暁斗くん?」
山田がポカンと口を開ける。
「あのね、暁斗くんは俺の遠い親戚なの!」
柿崎は驚いて振り返った倉科の頬を指ではじきながら言った。
「離婚した両親が今裁判してて。その話で呼ばれたんだよね?てかプライベートのことなんだからそっとしといてあげてよー、山田っちー!」
柿崎はそう言いながら倉科の髪の毛を撫でた。
「え、でも城西高校って、マジで……」
「はい!この話はおしまいっ!」
まだ何か言おうとしていた山田の言葉を遮りながら睨み上げる。
「……山田さ、適当なことばっかり言ってたら、マジでぶっ殺すぞ……?」
「!!」
山田の小さな目が見開かれる。
「ーーうちの沢ちゃんがなっ!」
その言葉に皆が吹き出す。
「俺かよ!!」
ややウケに便乗すべく沢渡も笑っている。
「―――けっ。下らねえ」
静かに聞いていた辻が、開いた窓の外に向かって唾を吐き、どこから帰ってきたんだか喜多見が後ろのドアをガラガラと開ける。
皆が皆の席に戻り、何人かが倉科に勘違いを詫びる言葉をかける。
教師が入ってきて、皆はいつものように席に着いた
なんとか、誤魔化せた。
なんと、無駄な労力を……。
柿崎は誰にも気づかれないようにスーッと細い息を吐いた。
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