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「またお前らと一緒かよー」
昇降口に貼られたクラス票を見ながら、沢渡はわざとらしく嫌そうに、しかしどこかホッとしたような顔で振り返った。
「沢ちゃーん、そんなつれないこと言わないでさ。また1年間よろしく頼むよ」
柿崎はこれまた同じクラスだった中林と共に苦笑いをした。
「あんれぇ?」
クラス票に目を戻した沢渡が口の端を引き上げた。
「泉も一緒だ」
「泉?」
眉間に皺を寄せた柿崎と中林に、沢渡はへらへらと笑った。
「俺、おな中なんだよね。チビで暗くてマジで何考えてるかわかんない奴。女みたいな顔してさー」
「へえ」
『チビ』『暗い』『何考えてるかわかんない』『女みたいな顔』
顔は広い方なのだが、そんなヒントを並べられても顔が脳裏に浮かばない。
「へへ。遊んでやろっと。どうせボッチだろうから」
―――ま、いっか。
柿崎は沢渡のにやついた顔を横目で見た。
―――こういうタイプは特定の標的がいた方が逆に大人しいだろうから。
ここは泉という奴に犠牲になってもらおう。
親にチクらず、教師に訴えず、登校拒否にならない程度に。
沢渡の性格はある程度把握している。見た目以上に単純だ。十分に操縦できる。
「うわ、つーか、喜多見も一緒じゃん!」
中林がクラス票を指さす。
確かに柿崎の下に、学校一の問題児、喜多見の名前もある。
彼とは中学は別だったので、高校の入学式で再会した時は驚いた。
小学生の時から身長は大きかったが、それに加えて肩幅といい、腕の太さといい、高校生離れした肉体の変革を遂げた喜多見は、髪を金髪に染め耳に数えられないほどのピアスを開け、ますます近寄りがたい風貌になっていた。
学校自体にあまり来ていないのか、すれ違ったのも数える程度しかないが、それでもこちらが視線を送っているのに彼と目があったことはなかった。
同じ高校だと気づいていないか、それとも自分のことなんかとっくに忘れてしまっているのかもしれない。その方が都合はいいが。
「んー?」
今度は沢渡がクラス票をのぞき込んだ。
「このさ、“倉科”って、誰だ……?」
その言葉に柿崎はもう一度クラス票を見上げた。
喜多見の名前の下に、倉科暁斗というみおぼえのない名前が並んでいた。
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