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夏が――終わった。 倉科は今住んでいる場所から駅を5つ超えたところにある、母校と呼ぶにはあまりにも短い期間しかいなかった高校を見上げた。 夏期講習で、かつて倉科がいたクラスが事件に巻き込まれ、8人の男子生徒が命を落とした。 その中には、ひと時ではあったが心を通わせた、柿崎の名前もあった。 昇降口には事件後2ヶ月も経つのに、多くの花束が供えられていた。 そこに持ってきた真っ赤なガーベラの花束を置く。 購買の林檎クレープはついに食べることができなかった。 たとえ食べることが出来たとして、隣に彼がいないのでは意味がない。 「――――」 雨が降ってきた。 倉科は彼が笑っていた屋上を見上げた。 もし自分がもう少し長い期間、この高校にいることが出来たなら。 夏期講習に向かうバスに一緒に乗っていたのなら。 彼を助けることが出来たのだろうか。 そんな意味のない考えを打ち消すように目を細めた。 降り始めた雨で、真新しいブレザーの制服が、ツンと匂った。
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