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結局、選択教科は、沢渡がクラスで一番かわいいと言い切る(むらさき)ゆかりがいる化学にした。 「紫かあ、確かにかわいいけど」 中間休みになり、教室棟がある廊下は生徒たちでごった返していた。 人の波を避けながら、中林が頭の後ろで手を組んだ。 「あいつほどじゃないよな。柊麗奈」 「―――!」 「………」 その名前に柿崎はもちろん、沢渡も凍り付いた。 1年前の百狐祭。 自分達が彼女に何をしたのか覚えてないはずはないのに、 「なんで転校しちゃったのかなー」 中林はすっかり忘れたような顔をして廊下を歩いていく。 ――これだから何も考えてない馬鹿は……! 危うく舌打ちしそうになったところで、 「あー」 沢渡の低い声が響いた。 「泉じゃん」 視線を追うと、ノートと筆入れを持った泉が階段側からやってくるところだった。 鳥でもいるのだろうか。窓の外をボーっと見ながら歩いている。 「よっ、泉。」 沢渡が話しかけると今初めて気づいたように、身体をビクンと震わせた。 「同じクラスだなー。よろしくなー?」 沢渡が口の形を歪めながら言うと、彼は大きな目をおびえたように見開いた。 マズいな。 性格もさることながら、見た目の印象がどう見てもいじめっ子といじめられっ子だ。 沢渡にこうやってあからさまにされると、クラスメイトに反感を抱かれかねない。 素早く視線を走らせる。 こちらを向いている女子はいない。 そう言えば転校生、倉科の姿もない。 変な奴らが集まってくる前にーー。 「……沢ちゃん?話があるなら場所移してね」 そう言うと別に変な意味で言ったのではないのだが、彼は何かを企んでいるようにニヤリと笑った。
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