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――マズい。 頭の中で警鐘が鳴る。 倉科は転校生。 1年のときのクラスカーストを知らない。 さらには1学期までしかいないため、失うものもない。よって慎重になる必要がない。 転校生の分際でこの空き教室に単身で乗り込んできたくらいだ。 薄っぺらな正義感で引っかき回していくかもしれない。 まだカーストも組み上がっていない教室も、 沢渡をその頂点にして操る柿崎の計画も。 「あーもう、そこは笑わなきゃ、泉っち。じゃないと沢ちゃんが本当にカツアゲしてるみたいじゃーん」 柿崎はできるだけ明るい声で言った。 沢渡を本格的ないじめっっこキャラにするわけにはいかない。 ここはできるだけライトに、可能な限りシンプルに、あくまで冗談で終わらせなければ。 「さっき俺たちとしたアイコじゃんけんに負けて悔しかったんだよね。沢ちゃん!ほら、誤解を生む前に行こうぜ!」 ポンポンと沢渡の背中を叩くが、彼はまだ転校生を睨んでいる。 「ほーら。沢ちゃんの目つき悪すぎて、それだけで死人が出ちゃうから!さっさと行こう!」 今度は強めに背中を叩く。 やっと振り返った沢渡は眉間に皺を寄せて柿崎を睨んだ。 ―――ああ? 柿崎は口元には笑みを浮かべたまま沢渡を睨んだ。 ―――誰に向かってガンつけてんだ、お前は。 「……!」 沢渡の目つきが変わる。 ―――俺さえいなきゃお前なんか、女子に嫌われ男子に蔑まれ、それこそボッチで1年間過ごす羽目になったんだぞ? 「………ああ」 沢渡は短く変な声を漏らした。 「行こうぜ」 その声で中林もやっと泉から視線を離し、踵を返した。 「あ、倉科君、購買のパン?」 すれ違いざま柿崎はわざとらしく倉科の抱えたパンを見下ろした。 「てか細身なのに結構食べるねー。ひーふーみーよー5つもあんじゃん。1つちょうだい!」 冗談で両手を差し伸べる。 そう、冗談にしなければいけなかった。 2年の始業式、この空き教室で起こったすべてを冗談にーーー。 しかし、 「コロッケパンでいいか」 倉科は抱えるパンの中から一番上にあったそれを選び取ると、柿崎の両手の上にぽんと置いた。 そしてスタスタと3人の間を抜け、泉に歩み寄ると、 「泉が教えてくれた通り中間休みなのに行列ができてたよ。間に合ってラッキー」 キョトンとしている泉に笑顔を向けた。 「あ、よかったね」 やっとのことで泉が言うと、 「これはその」 倉科はこちらに十分聞こえる声で言うと、泉の手の上に焼きそばパンとサンドイッチを置いた。
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