康太の憂鬱

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息を深く吸うと続ける。 「このままじゃ、私ずっと幸せになれない。だから、彼と再会して押し倒すの。しばらく付き合ったら、こっぴどく振ってやる。それでようやく私の恋が成仏するの」 頭に血が上り…次の瞬間、言葉が口から飛び出していた。 「なんだそれ。振るために付き合うっていうのか? 相手の家族の迷惑も考えろ!」 自分でも驚くほどの大きな声だ。騒いでいた両隣のテーブルが水を打ったように静まり返る。 「…康太だから話したのに…」 彩佳は俯いた。まつ毛がみるみる重く濡れていく。しまった。泣かせてしまうとは。 「帰るね。これ、お金。余ったら取っといて」 テーブルに五千円札を置いて席を立った。俺もカバンを引っ掴んですぐに立ち上がる。 会計を済ませて大通りに飛び出すと、もう彩佳の姿は無かった。 「ヘタクソだな…」 思わず声が出る。彩佳がやろうとしていることが不倫だろうとプリンだろうと、言いたいのはあんな説教じみたセリフではなかった。『いいかげんに俺のことを見ろ』の一言だ。 「泣きたいのはこっちだよ」 見上げると満月にちょっとだけ足りない、欠けた月が滲んで見えた。やれやれ。乱視がひどくなったかな、と強がってみる。
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