彩佳の計算

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彩佳の計算

一人暮らしの1DKに帰り着いた。勢いよくベッドに倒れ込み、枕に顔を押し付ける。普段怒らない相手に怒られ、自分でも意外なほどショックを受けていた。 康太があんな大声出すなんて。 確かに甘えていたかもしれない、と思う。康太は高校のときから、私が付き合った相手も、告白された相手も、フラれた相手も全部知っている。失恋したその足で康太の部屋に向かい、朝まで飲みに付き合わせたこともあった。泥酔し、目が覚めたら私は康太のベッドで寝ていて、康太はフローリングの床に布団もかけずに転がっていた…なんてこともあったっけ。 高校以来、何かとウマが合い親しくしてきた私たちだが「そういう関係」になったことは一度もない。康太は私にとって親友であり兄であり、時には弟のようで、かけがえのない存在であることは確かだ。けれど恋愛感情を抱いたことは全くない。 正直に言うと、康太は私のことが好きなのではないかと感じたことは何度もあった。でもそのたびに気づかないフリをしてきた。だって、私は今まで付き合った相手と1年以上続いたことが一度もないから。康太と付き合ったあげくに彼を失うのは、私の人生において多大なる損失だから。 「計算高い女…」 声に出して言うと、自分に対する失望感でいよいよグッタリする。
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