15人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
なりたいもの
そのときスマホが鳴った。康太からだ。
「康太、どうしたの」
「どうしたの、じゃないよ。さっきはごめん。俺、偉そうなこと言ったからさ」
「そんなことないよ。私こそごめん」
「本当に会うの? 本田に」
すぐに返事はできず、黙り込んだ。
「バカでごめん。でも、けじめつけて来たいの」
「そうか。わかった。聞いて。俺、さっき言えなかったことがあってさ。言おうと思ったけど彩佳が急に帰っちゃったから」
「ごめんて。何かあったの?」
康太が電話の向こうで息を整えているように感じた。
「俺、転勤決まったんだ。シンガポールに、来月から。5年くらいは帰ってこれないと思う」
「え…うそ」
「噓なんてつくかよ」
沈黙を破ったのは私のほうだった。
「…おめでとう! 海外赴任ってことは、栄転でしょ。康太って仕事できるんだね。まあ、できる奴だってことは知ってたよ。良かったね」
「ありがとう」
「少しはね、寂しくなるけど。ほら康太には愚痴とかいろいろ聞いてもらってたじゃん? 飲みに行く相手もいなくなっちゃうし。でもまあ5年なんてすぐだよ。あっ、私、シンガポールに遊びに行くよ! 嬉しい! まだ行ったことないんだよね。案内して…」
最初のコメントを投稿しよう!