なりたいもの

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なりたいもの

そのときスマホが鳴った。康太からだ。 「康太、どうしたの」 「どうしたの、じゃないよ。さっきはごめん。俺、偉そうなこと言ったからさ」 「そんなことないよ。私こそごめん」 「本当に会うの? 本田に」 すぐに返事はできず、黙り込んだ。 「バカでごめん。でも、けじめつけて来たいの」 「そうか。わかった。聞いて。俺、さっき言えなかったことがあってさ。言おうと思ったけど彩佳が急に帰っちゃったから」 「ごめんて。何かあったの?」 康太が電話の向こうで息を整えているように感じた。 「俺、転勤決まったんだ。シンガポールに、来月から。5年くらいは帰ってこれないと思う」 「え…うそ」 「噓なんてつくかよ」 沈黙を破ったのは私のほうだった。 「…おめでとう! 海外赴任ってことは、栄転でしょ。康太って仕事できるんだね。まあ、できる奴だってことは知ってたよ。良かったね」 「ありがとう」 「少しはね、寂しくなるけど。ほら康太には愚痴とかいろいろ聞いてもらってたじゃん? 飲みに行く相手もいなくなっちゃうし。でもまあ5年なんてすぐだよ。あっ、私、シンガポールに遊びに行くよ! 嬉しい! まだ行ったことないんだよね。案内して…」
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