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康太がポケットから取り出したのは、小さなケースだった。彼はそれを両手で上下から挟み込むと「パカッ」と恭しく開ける。
そこにはキラリと輝くダイヤモンドの指輪が…
ない。
「なにこれ。ドッキリ!?」
私は思わずおなかを抱えて笑い出した。
「いろいろ調べたんだ。指輪を勝手に選ぶのは男のエゴなんだって。ずっと身に着けるものだから好きなデザインのものが欲しいからって」
「ちょっとちょっと!待って! それよりも、先にする話があるでしょ…」
私は素早く康太の首に両手を回すと口づけた。
「わかったの。本田さんのこと。恋に恋してただけだって。あんまり何回もフラれたから意地になってただけ。だからもう、どうでもいい」
本当にどうでもいい。康太がいなくなるかもしれないと思ったら、本田さんのことなんて霧の彼方に消えてしまった。やっとわかった。とっくに、康太に恋していたんだ。失うのが怖くて気づかないふりをしていた。
康太が私を見つめる。この上なく優しい視線だ。
よかった。もう少しで、この優しいまなざしを永遠に失ってしまうところだった。
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