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康太の憂鬱
またこの話だ。俺はいったい、何を聞かされているのだろう。
金曜日の秋葉原。安いチェーンの居酒屋はサラリーマンたちの笑い声で腹が立つほど騒々しい。彼女の声が聞こえないじゃないか。立ち上がって「静粛に!」と声を張り上げたいくらいだ。
目の前にいる女性、彩佳は俺の高校時代からの友人で、初恋の人である。32歳。出会ってから15年が経とうとしているが、変わらない。いやさすがに外見は変わったけれど、中身が高校生のままだ。無鉄砲で、無邪気で、そして絶望的に残酷だ。俺の気持ちに全く気付かないわけじゃないだろうに、どうして相も変わらず、こんな話ができるのだろう。
「だから、ね。これで最後。また当たって砕けようと思うの」
彩佳はジョッキを勢いよく傾けハイボールを口の中に流し込んでから言った。
「康太も知っているでしょ。私ずっと本田さんのことが好きなの」
「また本田か。彼氏と別れるとすぐそれだ」
俺はカツオのたたきに勢いよく箸を突き刺すと口の中に放り込む。
「何十年前の話だよ。もう向こうなんて、彩佳のこと覚えてもいないんじゃないか」
彩佳は俺の目を睨みつけた。ああ、この怒った顔が可愛いんだよな…。ドキリと高鳴る俺の心臓が不憫でならない。
「いーえ!若年性痴呆症にかかってでもいない限り、覚えているハズだし!
康太はフラれてもフラれても、果敢に告白してくる可愛い年下の子のこと、忘れられる? 5回だよ? 私、5回もフラれたんだから!」
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