chapter 1.

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「で、どうだったのよ」  いつものように堤の家に集まって、俺と井上と堤の三人で膝を突き合わす。  他に誰もいないのは分かってはいるけど、ついこうして身を寄せ合って小声で話してしまう。  堤の実家は元々写真館を営んでいて、祖父の代に閉店してしまったが店はまだそのままの状態で残っている。  俺たちは放課後になるとここに篭って作業している。 「その話は後でも良いじゃん」 「先に聞かせろよ、減るもんでもないし」 「………違った。以上」 「何が?」  こちらを覗き込んで、堤がそう呟く。  俺は自分の頭を掻きむしって叫び出したくなる衝動を無理やり抑え込むと、再び口を開いた。 「だから、告白じゃなかった」 「えっ、マジで⁈」  途端に井上が心底愉快そうに目を細めておどけた表情を見せつけてくる。 「だからさ、もう良いだろ。早く開封しようってば」 「告白じゃなかったなら何だったの?」 「……ウチのじいちゃんのファンなんだって、峰川さん」 「あー、あれだもんな、お前んとこのじいちゃん昔アイドルだったんだもんな」 「そうなの?」 「凄い人気だったらしい。でも確かに年寄りになってもカッコいいもんな、お前のじいちゃん」 「診察に来た時、なんかやたらと看護師さんが浮かれるんだよな……ほんと、どうやったらあんなにモテるんだろ」 「顔は激似なのに、お前は全くモテないもんなー」 「ねぇ、傷抉るの本当にやめてくれる」 「そんなに似てるの、小田桐とお祖父さんって」  俺は渋々、制服の内ポケットに仕舞い込んでいた預かり物の写真を取り出して堤に見せた。 「…………いや、怖っ」 「想定内のリアクションを、どうも」  ケースに収まったそれを手から取り上げて、堤が勝手に俺の顔の真横に並べて見比べる。 「いくらなんでも似過ぎでしょ。これはワンチャンあるんじゃないの?」  しれっと言い放った堤に向かって、俺は「マジでそう思う⁈」と身を乗り出す。 「……ないだろ、蟹とカニカマくらい違うんだから」 「カニカマってなに?」  俺の問いかけには答えず、井上は頬杖ついてそっぽ向く。 「ほら、いいから。開けようよ」  写真を堤の手から奪い取って再び懐へ仕舞い込むと、俺は思い切り井上の肩を叩いた。 「いってぇなー、そんなだからモテねぇんじゃねぇの」 「余計なお世話」  黒いビニール袋の包装をハサミで切って、井上が袋の中に手を入れる。 「……いくぞ」 「はやく、はやく」 「…………」  焦らすみたいに井上が袋の中からゆっくりとそれを取り出す。 「すげぇ」  隣で堤が溜息みたいな声量で呟く。 俺は思わずごくりと生唾を飲んだ。 「ヤバい、感動で泣きそう」 「わかる」  井上の手には銀色の丸いケースが握られている。 「開けるぞ」  井上の声掛けに俺たちが無言で頷くと、パカッと音をたててケースが開いた。 「凄い……リールに巻かれてる状態初めて見た」 「手袋、手袋はかないと」  机の上に放っておいた白い手袋をつけて、そっとリールに巻き付けられたフィルムを持ち上げる。 「どうする、編集やってみる?それか一旦このまま映写機かける?」 「うわぁ、めっちゃ迷うな」 「とりあえずさ、観てみようよ」  三人で悪戦苦闘しながら古い映写機にフィルムをかけて、ピントを調整する。  部屋の端と端を渡すように張った紐に真っ白いシーツを吊るして作ったスクリーンに、ぱっと映像が映る。 「ほんと……俺、ヤバいわ」  感極まって俺が泣き出すと、井上が肩を組みながら何度も頷く。
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