chapter 1.

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 俺が映画を好きになったきっかけは、じいちゃんだ。  演技の勉強のために買い集めた祖父の映画コレクション(昔は円盤って呼んだりしてたらしい)に幼少期の俺は夢中になっていた。  日本映画は勿論、ハリウッド大作から韓国ノワール、フランス映画やインド映画…片っ端から観まくった。  俺は完全に映画の世界に魅せられたのだ。  "将来は映画監督になる"という俺の夢は、大人達の手によって真っ黒に塗り潰されてしまった。  2074年となった今年、政府によって"エンタメ"について厳しく取り締まるようになった。  2060年を過ぎた頃から、世の中はAIによって全てを管理されるようになった。  AIの診断によって進路や就職先が決まるので、昔の人のように将来の事に頭を悩ませる必要もない。  食事はカプセル剤のみになり、人々は自由に味や食感をカスタマイズして楽しめる。  俳優や歌手はヒューマノイドに置き換えられるようになった。  脚本や映像、歌詞や曲など何もかもAIが"適切なもの"を生成して人々へと届ける。  この"適切なもの"から少しでも外れるものは徹底的に排除される傾向にあった。  つまりは、人間が創り出すものだ。  条例で、AIが作ったもの以外の娯楽品に手を出すと罰金もしくは懲役が科せられる事になってからは、かつての娯楽や芸術は見る間に衰退の一途をたどった。
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