20人が本棚に入れています
本棚に追加
先輩と思わしき人が残した段ボールには他にも未使用のシングル8のフィルムが3本も入っていた。
高校生になっても相変わらず映画に熱中している俺たちは、さらに大きなリスクを犯して試し撮りしたフィルムを現像に出した。
ネットから違法な業者に現像を依頼したのだ。
かなり危険な橋を渡ることにはなるが、「映画を撮ってみたい」という俺たちの意志は固かった(主に映画が好きな井上と俺の総意なのだが、堤は「うん、まあ、良いんじゃない」というフワッとした同意をくれた)
周囲に人がいないのを見計らって、学校や通学路で俺たちはいそいそとカメラを回した。
自分たちの手で何かを作り上げるなんて、生まれて初めての経験だった。
子供の頃から夢中になって、ずっと憧れていたものに一歩ずつだけど近付いているような気がしていた。
もっと俺に才能があればこの気持ちを上手に言葉にして伝えられるんだろうけど、生憎たったひとつの言葉しか頭に浮かばない。
とにかく、たまらなく嬉しかったのだ。
▶︎
映写機のスイッチを押して、機械を停止する。
俺たちはそれぞれソファに深く腰掛けて、ぼんやりと天井を眺めた。
「……すごかったな」
「創り出すってさ、こういうことなんだな」
「なんかよく分かんないけど、楽しかったねぇ」
ただのテスト撮影だ、学校の階段の踊り場や通学路の草木、取り留めのない映像がぽつぽつと映っているだけだったけど。
ざらりとした質感のフィルム映像が、見慣れた風景をとても特別な光景の様に映し出していた。
「ね、やっぱさ……俺たちであの絵コンテの映像、撮ってみようよ」
がばっと起き上がり身を乗り出して言うと、目の縁に涙を湛えたままの井上が大きく頷き、堤はいつもの調子で「良いんじゃない」とだけ言った。
最初のコメントを投稿しよう!