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「遅くなっちゃってごめん」
放課後の体育館裏で、俺は封筒に入った写真を峰川さんに手渡した。
彼女の細い指先がそっと封筒を開いて中を覗き込むと、彼女はその大きな瞳をきらきらと輝かせた。
「ありがとう、一生の宝物にするね」
峰川さんは封筒を自分の胸元にぎゅっとあててから、大切そうに鞄の内ポケットへと仕舞った。
「……ねぇ、聞いてもいい?」
「うん、もちろん」
「どうしてそんなに好きなの、俺の……じいちゃんのこと」
彼女が目を伏せると、長い睫毛が微かに震えて俺にはそれがこの世で最も美しいものに思えた。
ぼんやりとしている俺を他所に、彼女は静かに語り始めた。
「お母さんの影響なの。昔からアイドルが好きで、私が小さい頃は子守唄がわりに好きなアイドルの曲を歌ってた」
「面白いお母さんだね」
「一緒にいて楽しいひとだった……私が6歳の時に亡くなった」
なんて答えたらいいのかわからず、俺は「そっか」とだけ返した。
「家に残ってたライブのブルーレイをたまたま観て、ステージに立つ修司の姿を見て特別なものを感じたの」
「悔しいけど、歌ってる時のじいちゃん一際輝いて見えるもんな」
「小田桐君もそう思う⁈」
「うん」
彼女は持っていた鞄の紐を両手で握り締めると再び口を開く。
「今まで誰にも言ったことなかったんだけど、私ね、いつか歌手になるのが夢なんだ」
「……歌手?」
「こんな世の中でこんなこと望むなんて馬鹿げてるってわかってるけど、私もあんなふうに誰かの心を動かすようなことをしたい」
彼女はそう言うと照れくさそうに笑って、髪を耳に掛ける仕草をした。
「すごく分かるよ、その気持ち」
「ほんとに?」
「俺の夢もかなり馬鹿げてるから」
「えっ、小田桐君の夢ってなに?」
ぱちっと彼女の瞳が俺の姿を映す。
いつしか真っ黒に塗りつぶされてしまっていたそれを、その瞳の中に見たような気がした。
「俺の夢は、」
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