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「あり得ないと思って、何度も確かめたけど間違いなく本物だった」
希さんは視線を俺の横に立つ優斗へと向ける。
「ね、あれって、優斗くんだったでしょ」
ふと横を向けば、優斗が気恥ずかしそうに顔を歪めて笑っている。
『ごめん、何かしたくて……あれしか思いつかなかったから』
優斗の言葉を伝えると、希さんは唇をほころばせて微笑んだ。
「嬉しかった。ずっと遠回りして、返事が届いたみたいで」
『よかった。かえって怖がらせちゃったかもって、ずっと気になってたから』
俺は優斗の言葉を聞きながら、上を向いて顎をさする。
「井上だったら、ぎゃあぎゃあ叫びそう」
両隣の優斗と希さんが忍び笑いを漏らすと、斜め前の席で松田さんたちと談笑していた井上が不意にこちらを向く。
「いま俺のこと呼んだ?」
俺は顔の前で手をひらひらと揺らすと、いかにも納得いってなさそうな顰めっ面で井上は正面に向き直った。
『希ちゃんがくれた白いカーネーション、自宅に飾ろうと思ってあのとき俺、持ち帰ったんだけどさ』
手向けられた花や贈り物は地上で朽ちた後に、天国へと綺麗な状態に戻って送り届けられるそうだ。
優斗の元にも度々、花束や小物が届いてその都度自宅まで持ち帰っていたらしい。
『家に着くまでの間にどんどん色が変わっていって、自宅に着く頃には青いカーネーションになっちゃって。知り合いに聞いたら、白い花って天国では持ち主の心に染まりやすいんだって』
『せっかく選んでくれたのに……ごめんね』と申し訳なさそうに言う優斗に向かって、俺は口を挟む。
「前に何かで読んだことある」
「どうしたの?」
不思議そうに俺の顔を覗き込む希さんに、俺は優斗が話した内容を伝えた。
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