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 夏休み真っ只中の昼下がり、自分しかいないリビングにドアの閉まる音が響いた。うるさい。自分が立てた音なのに、苛ついてしまう。冷蔵庫からお茶を取り、コップの中に入れた。それを一気に飲み、音をたててコップを置いた。その直後、ドアが開く音と化粧品の粉の臭いがした。 「時哉、ちょっといいかしら」  なんでこんなときに。低い女性の声に顔が歪んだことが自分でも分かる。渋々振り返ると、腕を組み眉間にしわを寄せた母が立っていた。 「なんでしょうか」  俺が返事をすると、母はリビングに置いてある椅子に座った。支えることがきついのか、椅子が軋んだ音がする。やがて、母が話し始めた。 「ちょっと聞いたんだけど、塾の先生と揉めたんだって」  俺は頭を抱える。図星に気づき、母がため息をついた。 「前にも言ったでしょ。先生たちの言うことは素直に聞いてって。どうしても嫌なこと言われたら聞き流して」 「大学はこうしろ、学部はこうしろって、決めつけてくるんだよ」  早起きによる寝不足のイライラも溜まっていたせいか声を荒げた。そんな俺に母がピシャリと叱る。 「時哉がこの時期にもなって、まだ何も決まってないから、皆さんがアドバイスをしてくれてるんでしょ」  アドバイスじゃない命令してくるんだ。母にそう言い返したかった。 「そうじゃなくて」 「それに。自分のアドバイスを無下にする人と仲良くなりたいと思う?」  距離を置いて話しているのに自分の胸に指を差されているようである。母に諭され、俺は口を継ぐんだ。 「もう少し大人になってほしいの。まあ、今回は余裕がなかっただけよね。甘いものでも食べてリラックスして」  そう言って俺の手に小さい袋を握らせ、母はリビングを出る。自分も部屋から出ようとした。ふと手を開くとその中には金色で透明なべっこう飴があった。  大人になれって言いながら、飴って結局子供扱いかよ。腹が立ってドアを乱暴に閉める。その音に反応して母が廊下から覗きこんできた。やっぱり子供だと思われているんだろうな。握りしめていた飴をポケットにしまい、母の視線を横目に家から出ていった。
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