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 昼間の商店街は曇り空から降る雨に覆われていた。雨避けがあるが、一歩外に出れば水溜まりである。気を紛らわそうと店を探す。残金を確認すれば、最後のバイトの五千円札のみ。  すると、カラオケ屋の前に男たちがたむろしていた。ダボッとしたズボンにアクセサリーを身に付けて、今にもラップを始めそうだ。そんな男たちが徐々に増え、5人となった。いつらが入るカラオケ屋可哀想。遊び呆けている連中に一瞬、苛立ちを覚えるが他人事だと気づかないふりをして立ち去ろうとした。  しかし、目を凝らすと男たちの中に似つかわしくない黒く長い髪が見える。様子を伺うため近づくと、そこにいたのは中学生くらいの女の子だった。輝くような白い肌に古風ではあるが、可愛らしい顔立ちをしている。彼女は婦人服のワンピースで腰にスカーフで縛っている。胸の鼓動が早まった気がした。彼女はあの連中に話しかけられ、首を振り困っているように見える。早くなんとか助けないと。俺は身に任せて、美少女と連中の間に割って入った。 「おい、彼女が困っているだろ」  俺が言うと数人が呆れたように振り返る。 「また来た。これで何人目だよ」  何人目ってどういうことだ。俺は彼女と連中の話に耳を立てた。 「カラオケはどう? 一時間でもいいからさ」 「こっちが先に声かけたんだけど」 「申し訳ありません。お受けすることはできません」  男たちが揉めている中、美少女は冷静というにはあまりに無表情で淡々と断っている。嫌がる素振りも見せない。まるで、音声案内のようだ。たが、男たちも男たちで魔法にかかったみたいに彼女に迫った。自分もこの一人なんだろうけど。 「それでは、こうしましょう」  断り続けていた彼女が別の言葉を発する。周りにいた男たちも黙った。 「私が望んだものを持ってきて下さった方の願いをお受けすることにします」  そう言うとそれぞれ手で相手を指名し始める。 「あなたには仏のみ石の鉢、あなたは蓬莱の玉の枝、あなたには火鼠の皮衣、あなたは龍の首の玉、燕の子安貝を持ってきて貰いましょう」  彼女が俺以外の五人に説明すると、皆それぞれ首を傾げたり、あるものを表しているのではないか、と話したりしていた。美少女が五人の男たちに物を持ってきてもらう……。これ、この前の古典の授業でやったところだ、確か『竹取物語』。  悩む男たちに紛れて喜んでいたのも束の間、あることを思い出す。ということは全部空想のものなのに、そんなこと言って大丈夫なのか。俺が心配して見つめていたが、真に受けたように男たちはその頼まれたものを探しに商店街の店に行った。 「勉強しておけば、存在してないって分かるのに」  鼻で笑うと彼女と目が合う。少女の可愛らしいの中にある大人のミステリアスな雰囲気に自分もとりつかれそうになった。急いで目を反らすと話しかけてくる。 「あなたもいらっしゃったのですか。あなたには、そうですね……」  彼女は考え込んでいた。え、六番目なんてあったっけ。何がくるんだ。俺も同じように頭を抱える。しばらくして、 「亀の甲の甘味をお願いします」  と彼女が注文してきた。それはなんだ。俺は彼女の欲しいものについて考えている。 「それは具体的にどんなものなんだ」 「熱帯にいる亀の甲羅に手を加えた石があります。それに似た黄金色で、一口食べると天にも上るような気持ちにさせてくれるものです」  説明を聞いて、さらに訳が分からなくなった。空想上の食べ物か、あるいは高級品か。彼女に言われたものを想像してみる。黄金色の石みたいな食べ物。ふと、ズボンの後ろポケットに触れると、小さな固いものがある。取り出すと、先程お局からもらったべっこう飴が入っていた。 「これのことか?」  彼女にべっこう飴を差し出してみると、目が僅かに見開かれる。しばらく、沈黙が続き、また目があった。 「分かりました。あなたの願い、お受けします」  そして、静かに俺の隣に歩み寄ってくる。こんな美少女がすぐ隣にいるなんて。俺は周りに構わず両手を上げ喜んだ。あれ、もともとの目的と違うような……ま、いいか。  俺が変な人と思われそうな動きをしているのに、彼女は変わらず無表情である。こんなに可愛いんだから、笑えばもっと可愛いはず。どうしたら笑うかな。俺は持っていたべっこう飴の袋を開け、彼女の手に出した。 「食べていいよ。天にも上るくらい美味しいんでしょ」  彼女は俺とべっこう飴を交互に見たあと、一口で含む。俺はその彼女を観察してみた。飴を転がす音がする。瞬きしないように俺は目を大きく見開く。すると、彼女の口元が少し上がった気がした。微笑みに近い表情に自分の胸が射ぬかれる。もっと見たい。 「一つじゃ足りないよね。ちょっと探してみようか」 「はい、かしこまりました」  返事をする彼女はまた無表情に戻ってしまった。また、べっこう飴をくれれば笑ってくれるのかな。俺は彼女を連れていって歩き始める。
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