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 それから、数ヶ月後。俺は受験勉強をしていた。リビングで黙々と教材片手にペンを走らせていると、テーブルにコーヒーとお菓子を置く母が見える。 「頑張ってるね。でも、あまり無理しないようにね」  母は俺の顔をよく伺うようになった。彼女が月へ戻ってあと、お金がなかった俺は自転車で途中まで引き返した。しかし、自転車でなんか家に着くはずもなく、夜中になって母から電話がかかってきた。母は迎えに来て、ごめんなさい、と何度も頭を下げ抱き締める。恐らく自分のせいだと思っているらしい。 「分かってる、大丈夫だって。心配しなくても、もう子供じゃないんだから」  そうよね、と母が笑う。竹子さんの住む世界にいる人々も笑ったり泣いたりするようになったかな。それとも、また罰として地球に送り込まれているかもしれない。  置かれたお菓子から一つ選びとった。金色で透明なべっこう飴が照明で輝いている。それを一口で食べた。砂糖の甘さが口の中で広がり溶けていく。そのときだけ、あのときの甘い記憶に浸りながら、窓越しに見える満月を眺めていた。      おわり
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